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音程感覚には母語の影響が出るのか? | ヴァイオリン掲示板

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雑談・その他 275 Comments
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音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年03月28日 16:04
投稿者:pochi(ID:OVMFIBc)
ttp://www.fstrings.com/board/index.asp?id=39390
関連です。

音程感覚に母語の影響は、有る様な無い様な、感じです。こんなのの「分析」にはtartiniは有効な道具の一つになるでしょう。
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Re: 音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年04月05日 16:53
投稿者:catgut(ID:FGBFJpM)
音源LSIの記事を紹介したのは今現在でも民族音律は日常生活の中で要求されているということを強調するためです。

プレスリリースから。
ttp://www.oki.com/jp/Home/JIS/New/OKI-News/2006/03/z05131.html
インド音楽など民族音楽のサンプル演奏ファイルがあります。


代表的なクラシック音楽の中にもロシア民謡の影響が強い曲、ロマ(ジプシー)やカタロニア民謡(鳥の歌)など、民族的な音律を強調したほうがいいのではないかと思われるジャンルがあります。

そのような曲では「ピタゴラスと純正律」ではなく、「民族音律と純正律」の両立といった思考をすべきではないでしょうか。

こんな印象を持たれている方もいます。
ttp://crane.hobby-web.net/hitokoe/koe2005-08.htm
初めて聴いたときのカザルスの演奏は平均律ではなかった。完全な長三度、ミとファ、シとドの広い半音。当時やや異国的なその響きに違和感を感じながらも感動したのを思い出した。今でもはっきり耳に焼き付いている。
あれは故郷のカタロニア地方の民謡の音律であったのだろうか。


さて、カザルスは単に音程が悪かったのでしょうか、意図的に民謡の音律を取り込んだのでしょうか。
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Re: 音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年04月05日 17:56
投稿者:カルボナーレ(ID:ETYneJY)
これも、catgut氏が、カザルスの演奏を聴かれた結果、そのように思われての発言なのでしょうか。

私には、カザルスの演奏の録音は、音程の取り方含め、芸術家らしい、陰影のはっきりした、趣味のよい演奏に聴こえます。
調性も認識した上で、メロディーの中で到着する音、それに向かう音、解決する音など、感情と陰影の表現要素に、当然音程の高め&低めが含まれますが、カザルスはそれを重視し実践した演奏家ですので、鍵盤もフレットもない自由度を与えられた弦楽器を弾く人間にとっては、極めて自然な演奏と感じられるのが普通だと思います。
鳥の歌だけでなく、バッハの無伴奏を弾く時も、感情と陰影の表現に、音程の高め&低めは使われています。これをcatgut氏は、カタロニア風バッハと名付けますか、それともドイツ民謡風バッハと表現しますか。

さて、母国語の周波数帯域から始まった話だったと思いますが、話し言葉のイントネーションを音律に無理矢理結びつけようとして失敗し、結局母国語の影響については諦めて、次は民族音楽による影響に話題を移されたのでしょうか。
母国語によりその認識のために必要な周波数帯域が違うことは英語教材の売り込み文句を信じるとすると正しそうですので、それを深堀りして、幼児期からヴァイオリンを始めた日本人(2kHz以上も普通に使う)と、そうでない日本人との周波数に対する感度の違いがないか、などの文献を探す方が得るものが多い気がします。
あるいは、音程の話は諦めて、作曲家の母語と、旋律&リズムの関係の研究を始める方が実りのある結果が得られそうです。(この曲のこの部分はこの言葉のイントネーションが適用されているとかを、例えばショスタコやチャイコの曲に当てはめてみれば、結構面白い内容となりますよ。)
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Re: 音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年04月05日 18:57
投稿者:catgut(ID:FGBFJpM)
ずいぶん性急に結論付けたいようですね。
ドイッチュの論文を日本語訳で読んでいるところですが、
興味深い話が出ています。一部紹介します。

原文はこちら。
ttp://www.brainmusic.org/MBB91%20Webpage/Pitch_I_Deutsch.pdf

声の高さのパラドックス
D.ドイッチュ(カリフォルニア大学サンディエゴ校)
翻訳 日経サイエンス誌編集部

--------
これらのパラドックスから、聴覚認識の仕組みについていくつか
の興味深い結論が導かれる。まず明らかに、メロディーを移調しても
元と同じ旋律として認識されるという「等価性の原則」が崩れる。
--------

「平均律でさえ調によってカラーが違う」という主張がありますが
この論争に新しい見方が加わるかもしれません。

--------
(三全音のパラドックスで音程が人によって違って聞こえるのは、
一つの解釈としては生得的な原因が考えられる)。
もう一つの可能性は、発話は後天的に獲得されるもので、
他人の話し方を聞くことを通じて確立していくという見方だ。
各人はこの”枠組み”を用いて自分自身の話し方を律し、他人から
聞き取った話を評価するのだろう。
したがって、別の言語や方言を話す人では、母音の音質などが異なる
のと同様、そうした”枠組み”の特徴も異なってくると考えられる。
この線に沿って推測すると、同じ言語や方言を話す人々ではピッチ
クラス・サークルの向きも似たものになるが、異なる言語・方言を話す
人とは向きが違ってくるはずだ。
--------
として、イントネーションが違う集団でピッチ認識が異なる調査結果を
示しています。そして以下のように本論文を結んでいます。

--------
そうした研究によって、哲学者や音楽家が何百年も前から
主張してきたことがさまざまな形で裏づけられるだろう。
テンポや音域、変化しやすさといった、話し声の特徴を採り入れる
ことによって、音楽表現が豊かになるという主張だ。作曲家のムソ
ルグスキーが自伝に記したとおり、「芸術の機能は、単に感情だけ
でなく、何よりも人のスピーチを楽音によって再現することにある」。
--------
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Re: 音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年04月05日 20:17
投稿者:カルボナーレ(ID:ETYneJY)
ドイチュの論文読破後に、
>イントネーションが違う集団でピッチ認識が異なる調査結果を示しています。
について、ぜひ具体的に説明をお願いします。
また、それが演奏時の音程の取り方、あるいは音程の乱れにどのような影響があるか、ドイチェの論文の内容をもとに、ぜひ素直に論理的に解説いただけることを期待し、待たせていただきます。
(ドイチュの監修の”音楽の心理学”の日本語訳:西村書店、は上下巻とも持っていますので、音の高さの処理と、音楽における群化については、ドイチュの主張がある程度そこから読み取れるのではないかと思っています。)
[39798]

Re: 音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年04月08日 00:01
投稿者:catgut(ID:FGBFJpM)
少なくとも20世紀前半には、音程はソリストの個性(母語の影響があるかどうかはともかく)と深く関係していました。

The Art of Violinでギトリスはヌヴーやティボーやカザルスは意図的に音を外したと語っています。「音に色を付けるため」と表現しています。また現在では音が外れていると思われるから行われないとも言っています。20世紀前半には音程そのものがソリストの個性と理解されていたということでしょう。確かにイントネーションに特徴があると思われるティボーやエネスコなどは音程が悪いといって評価しない人と、熱烈なファン(彼らのイントネーションに心を動かされる人)に分かれるように思います。

現在ではヴァイオリニストのイントネーションは「標準語化」が進んでいて、例えて言えばNHKのアナウンサーばかりのようになり、個性派俳優が珍しくなってしまったというところでしょうか。
[39808]

Re: 音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年04月08日 20:03
投稿者:catgut(ID:FGBFJpM)
面白い調査がありました。

ヴァイオリン専攻の学生5人が弾いた同じ曲を聞き比べてもらった結果、
平均律から+49セントも高い音を含む演奏がプロヴァイオリニスト(2名)にも素人にも「最も正しい音程」に聞こえたそうです。

The expressive intonation in violin performance
ttp://www.marcocosta.it/icmpc2006/pdfs/130.pdf

実際の演奏では平均律、純正律、ピタゴラスからかなり離れた音程でも「正しい音程」に聞こえる場合があるのかもしれません。

カザルスが強調したexpressive intonationは現在でも以下のように活用されています。

Violin masterclassによるexpressive intonationビデオ解説
ttp://www.violinmasterclass.com/intonation_qt.php?sctn=Definition&video=int_def5

しかしかつてはさらに大きく音程を変化させていたそうです。

ttp://www.maestronet.com/forum/lofiversion/index.php?t90826.html
many of the older generation players (having to study with an old-school teacher who emphasized the expressive intonation, I know about it first hand), did seem to emphasize more than current players.

この音程は人類共通の感性に基づくのでしょうか。それとも文化や言語の影響があるのでしょうか。物理的に単純な音律が良いのならば人類共通と言えるかもしれませんが、どうもそういうわけではなさそうです。
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Re: 音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年04月09日 21:55
投稿者:catgut(ID:FGBFJpM)
「音の高さ」には2つの次元があり、周波数で表される絶対的な音高「ピッチハイト」と、ある音がオクターブ内のどの位置にあるかを示す「ピッチクラス」があるということです。絶対音感保持者には「ピッチハイト」ではなく「ピッチクラス」を正確に判別する能力があるそうです。このため、絶対音感を持つ人は平均律であっても「調にカラーがある」と感じるのではないかと思われます。

Deutschは1992年の論文で母語によって音程認識が変わる原因について以下のように推定しています。

------
私は、人々が自分たちの話し声の音域について、長期的にもあまり変化しない”枠組み”を持っているのではないかという仮説を立てた。この枠組みは、スピーチのなかに頻繁に現れる音価(音の高さ)を含むオクターブ帯域を反映しているだろう。私はさらに、このオクターブ帯域を定義しているピッチクラスが、その人の持つピッチクラス・サークルで最も高いところ(時計の文字盤でいえば12時に近いところ)に位置づけられるという仮説を立てた。こうして聞き手のピッチクラス・サークルの”方向づけ”が決まり、パラドックスの聞こえ方が決まってくるのではないだろうか(日経サイエンス編集部訳)。
-----

私の理解では、人間は言語で主に1オクターブ以内のイントネーションを利用しており、(このため絶対音感も言語のイントネーションを習得する3-6歳に学習される)言語ごとのイントネーションの使い方によって音程認識に差異が生じるということではないかと思います。

Deutschはこの研究を1992年で打ち止めにしたのではなく、2004年、2007年にもそれぞれ以下の論文を発表しています(原文がPDFで読めます)。

ttp://deutsch.ucsd.edu/psychology/deutsch_research6.php
・Speech patterns heard early in life influence later perception of the tritone paradox. Music Perception, 2004
ベトナム人集団と南カリフォルニア住民集団を比較し両者で三全音の認識が異なることを実証。
・Mothers and their offspring perceive the tritone paradox in closely similar ways. Archives of Acoustics, 2007
母子を調査し母子で非常に似た三全音の認識をすることを実証。

Deuschの仮説が決定的に正しいかどうかは分かりませんが、しばしば議論になる音律や絶対音感について示唆するものが大きいと思います。
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Re: 音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年04月09日 22:28
投稿者:catgut(ID:FGBFJpM)
以下のページで実際に自分が三全音の音形が上昇に聞こえるか
下降に聞こえるか確認することができます。

tritone paradoxと言語・絶対音感との関連
ttp://www.oct-net.ne.jp/~mayu-a/tritone_paradox.html

ページ下部の「全ての音を聞きたい方はこちら。」のリンクでwavファイルで
三全音が登録されています。これを聞くと単に上昇したり下降したり
するだけの2音に聞こえますが、人によって上昇と下降が逆に聞こえます(Deutschによると同じ言語圏の人は似た結果になるはずです)。
[39839]

Re: 音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年04月10日 22:13
投稿者:カルボナーレ(ID:ETYneJY)
無限音階 懐かしいですね。
昔、授業で聴いた時には、もう少し音質が違った(もう少し高音によった丸い音だった)ような記憶があります。
今、PCの音声出力を貧弱なイヤホンで聴いた限りでは、複数のオクターブの音が感じられ、移動するパターンにより程度は違いますが、高音の方は上がり、低音の方は下がる(広がって聴こえる)ように聴こえるパターンが結構あります。どの音高(周波数帯)を注目するかにより、答えが異なるということなのでしょう。

私には無理ですが、音楽家として耳が鍛えられている人は、多分いくつのオクターブの音が混ぜられていて、かつそれがどれくらいの音量バランスか、まで認識できるのではないかと思います。
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Re: 音程感覚には母語の影響が出るのか?

投稿日時:2009年04月11日 08:40
投稿者:catgut(ID:FGBFJpM)
弦楽器の音律について考察してみましたが、大原則としては以下が正しいと思います。

・旋律として美しく感じるのは6歳までに刷り込まれた音階
 ピタゴラスが刷り込まれればピタゴラスが美しく感じ、平均律や純正律が
 刷り込まれればそれらも美しく感じる。
・和音として美しく感じるのは唸りのない音(純正律)
 これは直感的に感じられるものなのでほぼ人類共通

弦楽器奏者は実際の演奏ではこれらを折衷していると思います。
鈴木鎮一は「音楽の表現法」という小論で以下のように書いています。

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音階というものはそれぞれの民族の発明品みたいなもので、太古の自然界には存在しなかったものであります。それでありますから人間は誰でも、音階の感覚をもって生まれてくるものではなく、言葉と同じように、それぞれの環境の中で教育されて、音階感覚が出来てくるわけであります。
ちょうど東京弁、大阪弁とアクセントその他がそれぞれに違っており、それぞれの土地で育った人びとは例外なしに、東京弁となり大阪弁となるのと同じであると思います。
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このため非標準的な音程を子どもの頃に聞かせるとそれを美しいと思い込むので、鈴木鎮一は美しい(とされる)音程の演奏を聞かせなさいと書いています。

一般に西洋音楽では旋律はピタゴラス音律が使われるという「常識」がありますが、これは音楽が西洋では神学・数学と結びついていた関係で「数学的に美しいピタゴラス音律が理想」と信じられていたということです。現実のヨーロッパの、特に世俗音楽では多くの音律が使われてきたと思います。多くのクラシック音楽家が魅惑されたロマ(ジプシー)の音楽ももちろんピタゴラスとはかなり違う音律が使われているそうです。幼い頃から教会音楽の伝統で育てられた人は旋律を純正律に近く(ルネサンス期など)
取ったり、ピタゴラス近くに取ったりしていたというのも事実でしょう。

カザルスはexpressive intonationについて、要するに「自分が良いと思う音程で弾け」と言っていて、結果的にカザルスの演奏は日本人にはやや特徴的に聞こえる音律になっています。

では大半の人が平均律を聞いて育つ現代日本人が日本の伝統的音階を快く感じないかというと、そうでもありません。一般に日本の三味線音楽の半音はかなり狭く取るそうですが、「さくらさくら」や「通りゃんせ」(今の旋律は本居長世採譜)の半音を1/4音で弾いたほうがずっと情緒豊かに聞こえます。日本人なら多くの人がそうだと思います(試したことがない方はぜひ試してみてください)。これは単に過去の経験と日本音階が結びついているだけかもしれませんが、音程認識が母語に左右されるとするDeusch説も関係あるのかもしれません。
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