[41813]
基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月02日 22:46
投稿者:カルボナーレ(ID:EnE4GYc)
「弓の速さを増すと、また圧力を減らすと倍音は増えるか?」については、倍音が豊かになるという点ではNoという結論がでました。特に、高次倍音、特定の倍音以外はなくなるというのが結論です。
しかし、[41790]
でjackさんが示したmulti-slip音では、基音は減り、また高次倍音含む倍音の数は減るが、2倍音、または3倍音のレベルは上がるという事実は注目すべき点ですので、これがハイフェッツの音の秘密であるかどうか、明確にするためのスレッドをおこします。
思い込みや想像は排除し、そのように思う方の実証ベースでの書き込みを期待します。
しかし、[41790]
[41790]
Re: 弓の速さを増すと、また圧力を減らすと倍音は増えるか?
投稿日時:2009年10月31日 16:57
投稿者:jack(ID:EDhoQSE)
カルボナーレさん、遅くなりましたが、私が[41600]に書いた実験をyoutubeにアップしました。
ttp://www.youtube.com/watch?v=0vC44GZ79x4
動画ではA線に於いて[41600]のステップ1~4を全弓で1秒ずつ各4回弾き、同時にG-tuneのスペクトラムを撮影しました。
ステップ2,3はマルチプルスリップだと思いますがピッチは二つ以上聴こえますのでクラシック音楽には使えないと思います。但し、私の師がJ音楽院で教わった裏技の一つにこれを積極的に使う手法があります。詳しくは申せませんが、速いパッセージでの自然フラジオを指を触れずに開放弦のオクターブ上を鳴らすというものです。
参考までに[41600]を引用しておきます。
---------
G-tuneというFFTソフトでスペクトルを見てみました。
ttp://www.jhc-software.com/index.shtml
1.開放A線をを弾くと基音440Hz、第2倍音880Hz、第3倍音1320hzなどが観測されます。
2.駒側を速く軽い弓圧で弾くと第2倍音混じりの音になります。ピッチは基音と第2倍音の両方が聴こえます。このとき基音440Hzの山は少し下がります。第2倍音880Hzの山は少し上がります。(山の高さは不安定にゆれます)
3.さらに駒側寄りを少し強めに弾くと第3倍音混じりの音になります。このとき基音も440Hzの山は少し下がります。第3倍音の山は少し上がります。
4.弦1/2を軽く押さえた自然フラジオでは基音440Hzの山は消えます。第2倍音880Hzの山は少し上がり安定します。
・弦1/3を軽く押さえた自然フラジオでも基音440Hzの山は消えます。第3倍音1320Hzの山は少し上がり安定します。
以上です。どなたか追試下さい。
surface sound はどの状態を言うのですか? 2.や3.の状態はもはや別の音が聴こえてくるわけですので音楽演奏には使えないと思います。
-----
ttp://www.youtube.com/watch?v=0vC44GZ79x4
動画ではA線に於いて[41600]のステップ1~4を全弓で1秒ずつ各4回弾き、同時にG-tuneのスペクトラムを撮影しました。
ステップ2,3はマルチプルスリップだと思いますがピッチは二つ以上聴こえますのでクラシック音楽には使えないと思います。但し、私の師がJ音楽院で教わった裏技の一つにこれを積極的に使う手法があります。詳しくは申せませんが、速いパッセージでの自然フラジオを指を触れずに開放弦のオクターブ上を鳴らすというものです。
参考までに[41600]を引用しておきます。
---------
G-tuneというFFTソフトでスペクトルを見てみました。
ttp://www.jhc-software.com/index.shtml
1.開放A線をを弾くと基音440Hz、第2倍音880Hz、第3倍音1320hzなどが観測されます。
2.駒側を速く軽い弓圧で弾くと第2倍音混じりの音になります。ピッチは基音と第2倍音の両方が聴こえます。このとき基音440Hzの山は少し下がります。第2倍音880Hzの山は少し上がります。(山の高さは不安定にゆれます)
3.さらに駒側寄りを少し強めに弾くと第3倍音混じりの音になります。このとき基音も440Hzの山は少し下がります。第3倍音の山は少し上がります。
4.弦1/2を軽く押さえた自然フラジオでは基音440Hzの山は消えます。第2倍音880Hzの山は少し上がり安定します。
・弦1/3を軽く押さえた自然フラジオでも基音440Hzの山は消えます。第3倍音1320Hzの山は少し上がり安定します。
以上です。どなたか追試下さい。
surface sound はどの状態を言うのですか? 2.や3.の状態はもはや別の音が聴こえてくるわけですので音楽演奏には使えないと思います。
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思い込みや想像は排除し、そのように思う方の実証ベースでの書き込みを期待します。
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【ご参考】
[41922]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月13日 20:06
投稿者:セロ轢きのGosh(ID:IYhIMTc)
[41918]
カルボナーレ さん、
小生が「カルボナーレ さんの仮説」と言ったのは
[41850]
Re: Knut Guettler 論文の解釈
その命題に対し、私は、軽い弓圧から生まれるmulti-slip状態の側を攻めるのではなく、逆のProlonged irregular period側から攻めて、弓のスピードを上げる事で十分な圧力をかけつつProlonged irregular periodを最小限にする、あるいはなくすことができるという理屈で、1stick-1slipの状態での倍音の多い音を一瞬のうちに実現できるので、クリアかつ倍音豊富な音が得られる、とした方が納得性があるように思います。
のことです。
Multi-slip は想定していないので、基音の一周期内にピークは一つしかない筈、と考えた訳です。 楽器本体による波形の変化までは頭が回っていませんでした。
「ピークが鋭い」について:
ここで「倍音の多い音」とは当然「高次」倍音を問題にしていると解釈しました。 また、「1stick-1slipの状態」とは、ヘルムホルツ運動で近似できる状態と理解しました。 理想的なヘルムホルツ運動から出る音は理想的な鋸波であり、第n倍音は基音の1/nの振幅を持ちます(n→無限大)。 ここから高次倍音を減らす(例えばnを有限値で打ち切る)と、鋸歯の先端は丸くなります。 ですから、ヘルムホルツ運動(で近似できる)状態に於いては鋸歯の先端(ピーク)の鋭さと(高次)倍音の多さは(定性的・直観的には)等価である、と。
また、ヘルムホルツのキンクの鋭さと出力波形の鋸歯先端の鋭さも直感的に等価です(注)。 UNSWの記事 ttp://www.phys.unsw.edu.au/jw/Bows.html
の Last Paragraph によると弓圧を上げるとキンクが鋭くなって高次倍音が増えるとのこと。 未確認ですが直観的には解るような気がします。
といことで、
「十分な圧力をかけつつ1stick-1slipの状態での倍音の多い音」 を波形の観点で言い換えれば、「ピークは一つだが、より鋭い」 ということになる・・・・と考えた訳です。 ただし、これは弦から駒への出力の話であり、上にも書いたとおり、楽器本体による波形の変化は考えていませんでした。
誤解・曲解が入っていたら御免なさい、ご指摘いただけると幸いです。
注) ヘルムホルツ運動のフーリエ変換結果は
ttp://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/bitstream/harp/783/1/AA11419398_39_41.pdf
なんかに出ていますので、Excel か何かに入力すれば簡単に検証できる筈です。
[41918]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月13日 16:43
投稿者:カルボナーレ(ID:EnE4GYc)
セロ轢きのGoshさん
本題ではありませんが、[41893]の中の下記は、私のどの発言をどう解釈されたのかがわからず、まだ首をひねっています。
>一方、カルボナーレさんの仮説によれば、ピークは一つだが、より鋭い、
上記の意図を教えていただけますか?
駆動する弦振動の波形(鋸歯状派など)と、倍音(スペクトル)のことは結構書いたつもりですが、出てくる音の波形について書いた記憶があまりないのです。
本題ではありませんが、[41893]の中の下記は、私のどの発言をどう解釈されたのかがわからず、まだ首をひねっています。
>一方、カルボナーレさんの仮説によれば、ピークは一つだが、より鋭い、
上記の意図を教えていただけますか?
駆動する弦振動の波形(鋸歯状派など)と、倍音(スペクトル)のことは結構書いたつもりですが、出てくる音の波形について書いた記憶があまりないのです。
小生が「カルボナーレ さんの仮説」と言ったのは
[41850]
[41850]
Re: Knut Guettler 論文の解釈
投稿日時:2009年11月06日 00:50
投稿者:カルボナーレ(ID:EnE4GYc)
catgutさん
jackさんが提示してくれた、典型的なmulti-slip状態の音(基音と2倍音、基音と3倍音、2倍音のみが聴こえるケース)において、基音は減り、特定の整数時倍音は増えますが、多くの倍音はなくなり、multi-slip状態の音では高次倍音はなくなる方向に働くことが実証されました。
ttp://www.youtube.com/watch?v=0vC44GZ79x4
なお、基音を基準として相対値で話をすると、基音のレベルが限りなくゼロに近づいていくと、基音に対する倍音の相対レベルは無限大に近づきますので、例えば基音に対し倍音が1万倍になります、などという極端な表現も可能となります。しかし、この議論は相対的な話ではなく、絶対的なレベルでの話として進めるべき内容ですので、相対値での話は持ち出さないでください。
1stick-1slipでの基音、各倍音状態を基準に、せいぜい”1プラスマイナス1”倍までの絶対的なレベルの変化の話として進めましょう。
さて、本題に戻って、
>弓速が速ければ速いほど、音量を確保しながら「高周波成分が多い音」、つまり輝かしい音を出すことができます
と言われる根拠を、論理的な説明とデータで示してください。確かにハイフェッツの音を聴いていると、上記は正しそうなのですが、なぜ?という部分がまだまったく示されていません。
私の認識は、
- 今まで提示があった論文では、少なくともdouble-slip状態(遷移状態含む)では”音量が減る”結果となっている。
- jackさんの測定データからは、multi-slip状態では基音が減り、特定の整数次倍音のみが立ち上がり、総量としては音量は減る。
ですので、以前書いた通り、multi-slip状態と関連づけると、倍音も音量も減ることが実証されています。
multi-slip状態を持ち出すことなく、別の論理的な説明をお願いします。
>また高周波成分はサウンディングポイントが同一の場合、弓圧と弓速のコントロールで変化させることができます。
についても、その通りですが、今までの議論の結果としては、きれいな1stick-1slipでの鋸歯状波で駆動させる場合がもっとも高次倍音は豊富かつ大きくなり、それ以外の振動モードでは、減る方向に働くことが明確になっています。
その命題に対し、私は、軽い弓圧から生まれるmulti-slip状態の側を攻めるのではなく、逆のProlonged irregular period側から攻めて、弓のスピードを上げる事で十分な圧力をかけつつProlonged irregular periodを最小限にする、あるいはなくすことができるという理屈で、1stick-1slipの状態での倍音の多い音を一瞬のうちに実現できるので、クリアかつ倍音豊富な音が得られる、とした方が納得性があるように思います。
もちろん、速い弓速故に、音の出始めや切り際にmulti-slip状態も存在するでしょうが、それについては、そこで倍音が増えるのではなく、音色変化による知覚刺激で、聴き手の耳の注意力をその音に引きつける働きをしているいるのではないかと考えています。
加えて、弦を擦る音そのもの=ある程度以上の圧力で擦った時の擦音も、音色のキャラクターの一つですので、それもハイフェッツの音に対しては考察する必要があります。(すでに上げられたArt of Violinのパールマンの証言の本論を重視する必要があります。)
jackさんが提示してくれた、典型的なmulti-slip状態の音(基音と2倍音、基音と3倍音、2倍音のみが聴こえるケース)において、基音は減り、特定の整数時倍音は増えますが、多くの倍音はなくなり、multi-slip状態の音では高次倍音はなくなる方向に働くことが実証されました。
ttp://www.youtube.com/watch?v=0vC44GZ79x4
なお、基音を基準として相対値で話をすると、基音のレベルが限りなくゼロに近づいていくと、基音に対する倍音の相対レベルは無限大に近づきますので、例えば基音に対し倍音が1万倍になります、などという極端な表現も可能となります。しかし、この議論は相対的な話ではなく、絶対的なレベルでの話として進めるべき内容ですので、相対値での話は持ち出さないでください。
1stick-1slipでの基音、各倍音状態を基準に、せいぜい”1プラスマイナス1”倍までの絶対的なレベルの変化の話として進めましょう。
さて、本題に戻って、
>弓速が速ければ速いほど、音量を確保しながら「高周波成分が多い音」、つまり輝かしい音を出すことができます
と言われる根拠を、論理的な説明とデータで示してください。確かにハイフェッツの音を聴いていると、上記は正しそうなのですが、なぜ?という部分がまだまったく示されていません。
私の認識は、
- 今まで提示があった論文では、少なくともdouble-slip状態(遷移状態含む)では”音量が減る”結果となっている。
- jackさんの測定データからは、multi-slip状態では基音が減り、特定の整数次倍音のみが立ち上がり、総量としては音量は減る。
ですので、以前書いた通り、multi-slip状態と関連づけると、倍音も音量も減ることが実証されています。
multi-slip状態を持ち出すことなく、別の論理的な説明をお願いします。
>また高周波成分はサウンディングポイントが同一の場合、弓圧と弓速のコントロールで変化させることができます。
についても、その通りですが、今までの議論の結果としては、きれいな1stick-1slipでの鋸歯状波で駆動させる場合がもっとも高次倍音は豊富かつ大きくなり、それ以外の振動モードでは、減る方向に働くことが明確になっています。
その命題に対し、私は、軽い弓圧から生まれるmulti-slip状態の側を攻めるのではなく、逆のProlonged irregular period側から攻めて、弓のスピードを上げる事で十分な圧力をかけつつProlonged irregular periodを最小限にする、あるいはなくすことができるという理屈で、1stick-1slipの状態での倍音の多い音を一瞬のうちに実現できるので、クリアかつ倍音豊富な音が得られる、とした方が納得性があるように思います。
もちろん、速い弓速故に、音の出始めや切り際にmulti-slip状態も存在するでしょうが、それについては、そこで倍音が増えるのではなく、音色変化による知覚刺激で、聴き手の耳の注意力をその音に引きつける働きをしているいるのではないかと考えています。
加えて、弦を擦る音そのもの=ある程度以上の圧力で擦った時の擦音も、音色のキャラクターの一つですので、それもハイフェッツの音に対しては考察する必要があります。(すでに上げられたArt of Violinのパールマンの証言の本論を重視する必要があります。)
その命題に対し、私は、軽い弓圧から生まれるmulti-slip状態の側を攻めるのではなく、逆のProlonged irregular period側から攻めて、弓のスピードを上げる事で十分な圧力をかけつつProlonged irregular periodを最小限にする、あるいはなくすことができるという理屈で、1stick-1slipの状態での倍音の多い音を一瞬のうちに実現できるので、クリアかつ倍音豊富な音が得られる、とした方が納得性があるように思います。
のことです。
Multi-slip は想定していないので、基音の一周期内にピークは一つしかない筈、と考えた訳です。 楽器本体による波形の変化までは頭が回っていませんでした。
「ピークが鋭い」について:
ここで「倍音の多い音」とは当然「高次」倍音を問題にしていると解釈しました。 また、「1stick-1slipの状態」とは、ヘルムホルツ運動で近似できる状態と理解しました。 理想的なヘルムホルツ運動から出る音は理想的な鋸波であり、第n倍音は基音の1/nの振幅を持ちます(n→無限大)。 ここから高次倍音を減らす(例えばnを有限値で打ち切る)と、鋸歯の先端は丸くなります。 ですから、ヘルムホルツ運動(で近似できる)状態に於いては鋸歯の先端(ピーク)の鋭さと(高次)倍音の多さは(定性的・直観的には)等価である、と。
また、ヘルムホルツのキンクの鋭さと出力波形の鋸歯先端の鋭さも直感的に等価です(注)。 UNSWの記事 ttp://www.phys.unsw.edu.au/jw/Bows.html
の Last Paragraph によると弓圧を上げるとキンクが鋭くなって高次倍音が増えるとのこと。 未確認ですが直観的には解るような気がします。
といことで、
「十分な圧力をかけつつ1stick-1slipの状態での倍音の多い音」 を波形の観点で言い換えれば、「ピークは一つだが、より鋭い」 ということになる・・・・と考えた訳です。 ただし、これは弦から駒への出力の話であり、上にも書いたとおり、楽器本体による波形の変化は考えていませんでした。
誤解・曲解が入っていたら御免なさい、ご指摘いただけると幸いです。
注) ヘルムホルツ運動のフーリエ変換結果は
ttp://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/bitstream/harp/783/1/AA11419398_39_41.pdf
なんかに出ていますので、Excel か何かに入力すれば簡単に検証できる筈です。
[41924]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月13日 23:48
投稿者:カルボナーレ(ID:EnE4GYc)
セロ轢きのGoshさん
ご説明ありがとうございます。
ポイントは、1stick-1slip振動において、いかになまっていない鋸歯状派(垂直に一瞬で立ち上がって、それから徐々に引き絞られて、また限界点で垂直に立ち上がるような振動)が得られるかということですね。
その状態において、弦の振動としては最も倍音(高次倍音含む)が豊富に得られるということには合意します。
しかし聴こえとして、その状態の音がどのような傾向を持つかは、申し訳ありませんが、個人的にはわかっていません。その後の楽器本体での拡声部分で特徴付けされるときに、どうにでも色付けできるという点で、優れた入力にはなり得ると思います。無い成分を増やすと、ある成分を落とすのは、前者の方がはるかに困難なことです。
私は、定常部だけに注目するのではなく、耳は変化に注目してしまう特徴があるという点で、どのように音色が変化するか、という点が最終的にはポイントとなると思っています。また、弦を擦る雑音成分そのものの影響も考える必要があると思っています。それにいたるステップとして、定常部については一つ一つ明確にしていこうとして、継続的にスレッドを起こしています。
ご説明ありがとうございます。
ポイントは、1stick-1slip振動において、いかになまっていない鋸歯状派(垂直に一瞬で立ち上がって、それから徐々に引き絞られて、また限界点で垂直に立ち上がるような振動)が得られるかということですね。
その状態において、弦の振動としては最も倍音(高次倍音含む)が豊富に得られるということには合意します。
しかし聴こえとして、その状態の音がどのような傾向を持つかは、申し訳ありませんが、個人的にはわかっていません。その後の楽器本体での拡声部分で特徴付けされるときに、どうにでも色付けできるという点で、優れた入力にはなり得ると思います。無い成分を増やすと、ある成分を落とすのは、前者の方がはるかに困難なことです。
私は、定常部だけに注目するのではなく、耳は変化に注目してしまう特徴があるという点で、どのように音色が変化するか、という点が最終的にはポイントとなると思っています。また、弦を擦る雑音成分そのものの影響も考える必要があると思っています。それにいたるステップとして、定常部については一つ一つ明確にしていこうとして、継続的にスレッドを起こしています。
[41926]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月14日 01:25
投稿者:セロ轢きのGosh(ID:GBkzATQ)
カルボナーレさん、
本質的なところは外してなかったようで安心しました。
> 聴こえとして、その状態の音がどのような傾向を持つかは、
> 個人的にはわかっていません。
小生もです。 必ずしも高次倍音が増えりゃ好いってモンじゃないんじゃないかな。 という意味で、ハイフェッツの独特の音(?)についての説明としての double slip は否定されていないと感じています。
> 無い成分を増やすのと、ある成分を落とすのは、前者の方がはるかに困難なことです。
確かに、それは一つの状況証拠ですね。
なんだか極めてまともな議論になってきたので今後が楽しみです。
本質的なところは外してなかったようで安心しました。
> 聴こえとして、その状態の音がどのような傾向を持つかは、
> 個人的にはわかっていません。
小生もです。 必ずしも高次倍音が増えりゃ好いってモンじゃないんじゃないかな。 という意味で、ハイフェッツの独特の音(?)についての説明としての double slip は否定されていないと感じています。
> 無い成分を増やすのと、ある成分を落とすのは、前者の方がはるかに困難なことです。
確かに、それは一つの状況証拠ですね。
なんだか極めてまともな議論になってきたので今後が楽しみです。
[41927]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月14日 08:42
投稿者:jack(ID:EDhoQSE)
ハイフェッツの音を解析しました。
機材は家庭用PC,波形編集ソフトRipEditBurn, FFTアナライザーソフトG-tune、MP3レコーダーR-09と一応揃っているので適当な音源があれば「音を見る」ことができます。
ソロ曲が解析しやすいのでバッハの無伴奏曲を思い浮かべ悩みましたが、ふと目の前の譜面台を見るとバッハのソロソナタ第1番のフーガが載せてあったのでその冒頭部分を選びました。Dの音が4回弾かれます。
音源はYoutubeです。バッハ作曲無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番より「フーガ」
ttp://www.youtube.com/watch?v=YIDp0_XNNMk
実験1 ハイフェッツの音
冒頭Dの音が4回繰り返される部分を切り取りました
ttp://jackviolin1945.awk.jp/fuge_hifetz.mp3
二つ目のD(down bow)と三つ目のD(up bow)の音の波形をG-tuneで表示させました。写真撮影の為のサンプリングのタイミングは正確に制御できませんが、音の立ち上がりと立ち下がりに掛からない約100msの間にヒットするよう配慮しています。幾つかサンプリングした中で典型的なものを下に示します。画面中、下のグラフが周波数軸、その上のグラフが時間軸です。
二つ目のD(down bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9232rev.jpg
三つ目のD (up bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9236rev.jpg
倍音は第8次(約5KHz)まで観測できます。Upは第4倍音が基音と同じ位のレベルです。時間軸波形は基音の基本周期(約1.6ms)に加えてと第4倍音に起因すると見られる1/4周期の小さいこぶが見えます。Downでは基音のスペクトルが一番強く第4倍音のレベルはUpよりも下がっています。波形は小さいこぶが少し下がっています。
以前の実験(*)ではdouble slipが起こると、スペクトラムで第2倍音のレベルが基音のレベルを上回り、時間軸波形では1/2周期になることが確認されましたが、今回のハイフェッツの音ではそのような現象は確認されませんでした。
(*)[41600]
にアップしたyoutube動画(下記URL)で、故意にmultiple slipを発生させた演奏の音と波形の関係から、multiple slipの音は基音が減少し、第2または第3倍音が優勢となりそれらのピッチを認識してしまうので特殊効果を除いて楽音としては使えないという仮説を得ています。
ttp://www.youtube.com/watch?v=0vC44GZ79x4
次に、比較のために私の楽器で同じ箇所を解析して見ました。二通りの弾き方です。
実験2 私の楽器の音(短めの表現)
まずハイフェッツよりは短めのスタッカートで弾きました。
ttp://jackviolin1945.awk.jp/fuge_jack_p.mp3
二つ目のD(down bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9246rev.jpg
三つ目のD (up bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9250rev.jpg
当然のことながらハイフェッツの楽器に比べて倍音が少ないです(銘器ではないので)。そして波形における小さいこぶが少なく丸い感じでした。スタッカートが短めのため、恐らくアタック以外では弓と弦の間に空気を挟む、弦が自由振動に近い状態で楽器が鳴っていると思います。
そこで楽器の音響特性をインパルス応答(打診)で調べるのと似た方法ですが、上と同じDをピッチカートで弾き余韻部分の波形をみてみました。
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9265rev.jpg
予想通り、正弦波に近い波形です。高次倍音はすぐに減少してしまうようで、観測できるスペクトルは基音のDと第2、第3倍音のみになりました。尚、基音より低い、約300Hzの山はD線の共鳴、約400Hzの山はG線の共鳴の第2倍音に相当する位置です。(G線が第2倍音で共鳴するのは面白いですね。)
これより弓圧の少ない弦と弓の間に「空気を挟んだ」音、いわゆる「薄い音」というのは正弦波に近い音になることがわかります。これは逆に弓圧がある程度以上だと波形にこぶが出やすくなり、更に強いとmultiple slipになることを示唆しています。
実験3 私の楽器(長めの表現)
次に、ハイフェッツと同じようにテヌート気味で弾きました。少しテンポが落ち、弓圧も実験2より強めと思います。
ttp://jackviolin1945.awk.jp/fuge_jack_f.mp3
二つ目のD(down bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9260rev.jpg
三つ目のD (up bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9256rev.jpg
実験2に比べて倍音の相対レベルが上がってきており、それに伴い波形におけるこぶも大きくなりました。Upでは第2倍音、Downでは第3倍音が強く、時間軸波形におけるこぶはそれぞれ1/2周期と1/3周期が支配的になります。スペクトラムでの基音、倍音のレベルの差は小さく見えますが、時間軸波形にはこぶの高さに大きな差としてあらわれることがわかりました。
以上、簡単な実験ですが、当然のことながら楽器や弾き方によって倍音レベルの違いが観測されました。ハイフェッツの演奏の倍音構成はこの実験の範囲内では基音のレベルが倍音よりも下がる現象は見られませんでした。即ちハイフェッツの音がmultiple slipであるということを決定付ける証拠は得られませんでした。このスレの命題である「基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?」についても肯定的な結果は得られませんでした。ハイフェッツの定常状態(比較的長い音符のアタックを取り去った部分)の音はmultiple slipの音とは言えないという結論です。
尚、使用した機材・ソフトともに家庭用のものですので、精度、分解能については評価しておりません。G-tuneの時間軸波形とFFTスペクトラム間のdelay、縦軸目盛りなどについても詳細不明です。また機材の雑音、クロストーク、それに起因する歪などの影響についても同じですのでその程度のデータと受け止めて下さい。
より高精度な測定環境でより広範囲なデーターが集められるとヴァイオリンの楽器や演奏法について更に有益は知見が得られと思います。
機材は家庭用PC,波形編集ソフトRipEditBurn, FFTアナライザーソフトG-tune、MP3レコーダーR-09と一応揃っているので適当な音源があれば「音を見る」ことができます。
ソロ曲が解析しやすいのでバッハの無伴奏曲を思い浮かべ悩みましたが、ふと目の前の譜面台を見るとバッハのソロソナタ第1番のフーガが載せてあったのでその冒頭部分を選びました。Dの音が4回弾かれます。
音源はYoutubeです。バッハ作曲無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番より「フーガ」
ttp://www.youtube.com/watch?v=YIDp0_XNNMk
実験1 ハイフェッツの音
冒頭Dの音が4回繰り返される部分を切り取りました
ttp://jackviolin1945.awk.jp/fuge_hifetz.mp3
二つ目のD(down bow)と三つ目のD(up bow)の音の波形をG-tuneで表示させました。写真撮影の為のサンプリングのタイミングは正確に制御できませんが、音の立ち上がりと立ち下がりに掛からない約100msの間にヒットするよう配慮しています。幾つかサンプリングした中で典型的なものを下に示します。画面中、下のグラフが周波数軸、その上のグラフが時間軸です。
二つ目のD(down bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9232rev.jpg
三つ目のD (up bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9236rev.jpg
倍音は第8次(約5KHz)まで観測できます。Upは第4倍音が基音と同じ位のレベルです。時間軸波形は基音の基本周期(約1.6ms)に加えてと第4倍音に起因すると見られる1/4周期の小さいこぶが見えます。Downでは基音のスペクトルが一番強く第4倍音のレベルはUpよりも下がっています。波形は小さいこぶが少し下がっています。
以前の実験(*)ではdouble slipが起こると、スペクトラムで第2倍音のレベルが基音のレベルを上回り、時間軸波形では1/2周期になることが確認されましたが、今回のハイフェッツの音ではそのような現象は確認されませんでした。
(*)[41600]
[41600]
Re: 弓の速さを増すと、また圧力を減らすと倍音は増えるか?
投稿日時:2009年10月16日 11:04
投稿者:jack(ID:EDhoQSE)
[41599] カルボナーレさん、
G-tuneというFFTソフトでスペクトルを見てみました。
ttp://www.jhc-software.com/index.shtml
1.開放A線をを弾くと基音440Hz、第2倍音880Hz、第3倍音1320hzなどが観測されます。
2.駒側を速く軽い弓圧で弾くと第2倍音混じりの音になります。ピッチは基音と第2倍音の両方が聴こえます。このとき基音440Hzの山は少し下がります。第2倍音880Hzの山は少し上がります。(山の高さは不安定にゆれます)
3.さらに駒側寄りを少し強めに弾くと第3倍音混じりの音になります。このとき基音も440Hzの山は少し下がります。第3倍音の山は少し上がります。
4.弦1/2を軽く押さえた自然フラジオでは基音440Hzの山は消えます。第2倍音880Hzの山は少し上がり安定します。
・弦1/3を軽く押さえた自然フラジオでも基音440Hzの山は消えます。第3倍音1320Hzの山は少し上がり安定します。
以上です。どなたか追試下さい。
surface sound はどの状態を言うのですか? 2.や3.の状態はもはや別の音が聴こえてくるわけですので音楽演奏には使えないと思います。
G-tuneというFFTソフトでスペクトルを見てみました。
ttp://www.jhc-software.com/index.shtml
1.開放A線をを弾くと基音440Hz、第2倍音880Hz、第3倍音1320hzなどが観測されます。
2.駒側を速く軽い弓圧で弾くと第2倍音混じりの音になります。ピッチは基音と第2倍音の両方が聴こえます。このとき基音440Hzの山は少し下がります。第2倍音880Hzの山は少し上がります。(山の高さは不安定にゆれます)
3.さらに駒側寄りを少し強めに弾くと第3倍音混じりの音になります。このとき基音も440Hzの山は少し下がります。第3倍音の山は少し上がります。
4.弦1/2を軽く押さえた自然フラジオでは基音440Hzの山は消えます。第2倍音880Hzの山は少し上がり安定します。
・弦1/3を軽く押さえた自然フラジオでも基音440Hzの山は消えます。第3倍音1320Hzの山は少し上がり安定します。
以上です。どなたか追試下さい。
surface sound はどの状態を言うのですか? 2.や3.の状態はもはや別の音が聴こえてくるわけですので音楽演奏には使えないと思います。
ttp://www.youtube.com/watch?v=0vC44GZ79x4
次に、比較のために私の楽器で同じ箇所を解析して見ました。二通りの弾き方です。
実験2 私の楽器の音(短めの表現)
まずハイフェッツよりは短めのスタッカートで弾きました。
ttp://jackviolin1945.awk.jp/fuge_jack_p.mp3
二つ目のD(down bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9246rev.jpg
三つ目のD (up bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9250rev.jpg
当然のことながらハイフェッツの楽器に比べて倍音が少ないです(銘器ではないので)。そして波形における小さいこぶが少なく丸い感じでした。スタッカートが短めのため、恐らくアタック以外では弓と弦の間に空気を挟む、弦が自由振動に近い状態で楽器が鳴っていると思います。
そこで楽器の音響特性をインパルス応答(打診)で調べるのと似た方法ですが、上と同じDをピッチカートで弾き余韻部分の波形をみてみました。
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9265rev.jpg
予想通り、正弦波に近い波形です。高次倍音はすぐに減少してしまうようで、観測できるスペクトルは基音のDと第2、第3倍音のみになりました。尚、基音より低い、約300Hzの山はD線の共鳴、約400Hzの山はG線の共鳴の第2倍音に相当する位置です。(G線が第2倍音で共鳴するのは面白いですね。)
これより弓圧の少ない弦と弓の間に「空気を挟んだ」音、いわゆる「薄い音」というのは正弦波に近い音になることがわかります。これは逆に弓圧がある程度以上だと波形にこぶが出やすくなり、更に強いとmultiple slipになることを示唆しています。
実験3 私の楽器(長めの表現)
次に、ハイフェッツと同じようにテヌート気味で弾きました。少しテンポが落ち、弓圧も実験2より強めと思います。
ttp://jackviolin1945.awk.jp/fuge_jack_f.mp3
二つ目のD(down bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9260rev.jpg
三つ目のD (up bow)
ttp://jackviolin1945.awk.jp/IMG_9256rev.jpg
実験2に比べて倍音の相対レベルが上がってきており、それに伴い波形におけるこぶも大きくなりました。Upでは第2倍音、Downでは第3倍音が強く、時間軸波形におけるこぶはそれぞれ1/2周期と1/3周期が支配的になります。スペクトラムでの基音、倍音のレベルの差は小さく見えますが、時間軸波形にはこぶの高さに大きな差としてあらわれることがわかりました。
以上、簡単な実験ですが、当然のことながら楽器や弾き方によって倍音レベルの違いが観測されました。ハイフェッツの演奏の倍音構成はこの実験の範囲内では基音のレベルが倍音よりも下がる現象は見られませんでした。即ちハイフェッツの音がmultiple slipであるということを決定付ける証拠は得られませんでした。このスレの命題である「基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?」についても肯定的な結果は得られませんでした。ハイフェッツの定常状態(比較的長い音符のアタックを取り去った部分)の音はmultiple slipの音とは言えないという結論です。
尚、使用した機材・ソフトともに家庭用のものですので、精度、分解能については評価しておりません。G-tuneの時間軸波形とFFTスペクトラム間のdelay、縦軸目盛りなどについても詳細不明です。また機材の雑音、クロストーク、それに起因する歪などの影響についても同じですのでその程度のデータと受け止めて下さい。
より高精度な測定環境でより広範囲なデーターが集められるとヴァイオリンの楽器や演奏法について更に有益は知見が得られと思います。
[41928]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月14日 18:24
投稿者:catgut(ID:J5FmRBI)
やってみるとなかなか面白いですね。
プレーンガットA線で、楽音として2音に分離しない程度に軽く速い弓で弾いた結果をWaveSpectra2というフリーのスペクトルアナライザで見ると、基音と2次倍音は同程度の音量が出ています。ゆっくりと普通に弾くと、必ず基音より2次倍音のほうが音量が少なくなりました。
楽器や弦、弾き方を変えると違う結果になるかもしれません。
プレーンガットA線で、楽音として2音に分離しない程度に軽く速い弓で弾いた結果をWaveSpectra2というフリーのスペクトルアナライザで見ると、基音と2次倍音は同程度の音量が出ています。ゆっくりと普通に弾くと、必ず基音より2次倍音のほうが音量が少なくなりました。
楽器や弦、弾き方を変えると違う結果になるかもしれません。
[41929]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月14日 18:46
投稿者:セロ轢きのGosh(ID:IYhIMTc)
jack さん、
非常に興味深いデータ、ありがとうございました。
> ハイフェッツの定常状態の音はmultiple slipの音とは言えない
という結論は、提示頂いたサンプルを「いかにもハイフェッツの音だ」と皆さんが認めるかどうかに掛かっているとは思いますが、少なくとも multiple slip でない例が検証の手順と併せて示された(ボールはmultislip派のコートにある)という訳ですね。
前にちょっと書きましたが、理屈としては完全な「slip-stick」は弓速と弦の運動速度が完全に一致していなければ起こらない筈で、その一点を外れたところでは「速いslip-遅いslip」みたいなことが起こっていると思います。 それも、「速い/遅い」の二者択一ではなく、連続的に変化したり階段状に変化したり、ではないか。 勿論、基音が卓越していますから完全なmultiple slip ではなく、これまで議論してきた言葉で言うなら「遷移状態」なんでしょう。
実際の演奏では遷移状態が一般であり完全な「1slip-1 stick」はむしろ特異点なのかも知れません(完全なmultiple slip もまたその対極にある特異点ということになります)。 遷移状態の中でどこからを「弾き損じ」と感じるかは個人の感性と音楽的な文脈によって変わるのでしょう。
「surface sound」という言葉は元々ヴァイオリン弾きたちが「弾き損じ」の意味で使っていたものを Woodhouse教授(?)が価値判断抜きの物理現象として、広く遷移状態まで含めて定義しなおした、といった感じのことをcatgutさんが以前書かれていたと思うのですが、そうだとすると、「ハイフェッツの音の秘密は surface sound にあり」というのは実に無意味な命題だったことになりますね。 (まだ仮定が一杯入ってますのが)
非常に興味深いデータ、ありがとうございました。
> ハイフェッツの定常状態の音はmultiple slipの音とは言えない
という結論は、提示頂いたサンプルを「いかにもハイフェッツの音だ」と皆さんが認めるかどうかに掛かっているとは思いますが、少なくとも multiple slip でない例が検証の手順と併せて示された(ボールはmultislip派のコートにある)という訳ですね。
前にちょっと書きましたが、理屈としては完全な「slip-stick」は弓速と弦の運動速度が完全に一致していなければ起こらない筈で、その一点を外れたところでは「速いslip-遅いslip」みたいなことが起こっていると思います。 それも、「速い/遅い」の二者択一ではなく、連続的に変化したり階段状に変化したり、ではないか。 勿論、基音が卓越していますから完全なmultiple slip ではなく、これまで議論してきた言葉で言うなら「遷移状態」なんでしょう。
実際の演奏では遷移状態が一般であり完全な「1slip-1 stick」はむしろ特異点なのかも知れません(完全なmultiple slip もまたその対極にある特異点ということになります)。 遷移状態の中でどこからを「弾き損じ」と感じるかは個人の感性と音楽的な文脈によって変わるのでしょう。
「surface sound」という言葉は元々ヴァイオリン弾きたちが「弾き損じ」の意味で使っていたものを Woodhouse教授(?)が価値判断抜きの物理現象として、広く遷移状態まで含めて定義しなおした、といった感じのことをcatgutさんが以前書かれていたと思うのですが、そうだとすると、「ハイフェッツの音の秘密は surface sound にあり」というのは実に無意味な命題だったことになりますね。 (まだ仮定が一杯入ってますのが)
[41939]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月16日 20:41
投稿者:catgut(ID:J5FmRBI)
大変興味深い実験結果がありました。全文が以下で読めます。
心理実験によるバイオリン演奏における音色表現語とボーイングパラメータの関連付け
渋谷恒司 菅野重樹
ttp://ci.nii.ac.jp/naid/110004695635
この実験では「ボーイング装置」を使用し、A線開放弦を、
弓圧 40,90,140(gf)
弓速 20,35,50(cm/s)
サウンディングポイント 1,3,5(cm)
の組み合わせで弾いて、その音をスペクトル分析しています。
そして、その音色をどのように感じるか被験者に評価させています。
「図10 倍音構成とボーイングパラメータ」にスペクトル分析結果が出ていますが、「弓速50cm/s,サウンドポイント3cm,弓圧40gf」という、有意な測定結果のうち最も弓速が速く、弓圧が弱い場合にのみ、基音より2次倍音が大きくなっており、他のケースではすべて基音より2次倍音は小さくなっています。この条件での被験者の音色の評価は「潤いのある」でした。ちゃんと楽音に聞こえていたのでしょう。
心理実験によるバイオリン演奏における音色表現語とボーイングパラメータの関連付け
渋谷恒司 菅野重樹
ttp://ci.nii.ac.jp/naid/110004695635
この実験では「ボーイング装置」を使用し、A線開放弦を、
弓圧 40,90,140(gf)
弓速 20,35,50(cm/s)
サウンディングポイント 1,3,5(cm)
の組み合わせで弾いて、その音をスペクトル分析しています。
そして、その音色をどのように感じるか被験者に評価させています。
「図10 倍音構成とボーイングパラメータ」にスペクトル分析結果が出ていますが、「弓速50cm/s,サウンドポイント3cm,弓圧40gf」という、有意な測定結果のうち最も弓速が速く、弓圧が弱い場合にのみ、基音より2次倍音が大きくなっており、他のケースではすべて基音より2次倍音は小さくなっています。この条件での被験者の音色の評価は「潤いのある」でした。ちゃんと楽音に聞こえていたのでしょう。
[41942]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月17日 01:12
投稿者:セロ轢きのGosh(ID:GBkzATQ)
[41939]
catgut さん、
例によって本題とは関係ないけど面白い文献の紹介、ありがとうございました。
貴コメントの最終段落、確かに事実を書いておられますが、皆がみな原文を読むとは限らないので誤解されないように一寸だけ補足した方が良いかな、と。
「この条件での被験者の音色の評価は」 と書かれた「この条件」とは、「弓速50cm/s,サウンドポイント3cm,弓圧40gf」のことですよね?
確かにその条件での評価として「潤いのある」に○が付いています。 音色の評価項目としては他に
・力強い
・明るい
・豊かな
も挙げられていますが、上記条件の音に対する評価としてはこれらには一点も入っていません。
一方、弓速とサウンディングポイントが同じで弓圧が高いケースでは、「潤い」に加えてこれらの評価項目についても点が入っています。
> ちゃんと楽音に聞こえていたのでしょう。
には一応同意します。 条件によって「評価なし」とされた音も多数あり、これらは楽音として評価に値しない、ということらしいです。 即ち、僅かでも「潤いのある」に点が入ったのは、(少なくとも一部の被験者からは)楽音と認められたということなのでしょう。
[41939]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月16日 20:41
投稿者:catgut(ID:J5FmRBI)
大変興味深い実験結果がありました。全文が以下で読めます。
心理実験によるバイオリン演奏における音色表現語とボーイングパラメータの関連付け
渋谷恒司 菅野重樹
ttp://ci.nii.ac.jp/naid/110004695635
この実験では「ボーイング装置」を使用し、A線開放弦を、
弓圧 40,90,140(gf)
弓速 20,35,50(cm/s)
サウンディングポイント 1,3,5(cm)
の組み合わせで弾いて、その音をスペクトル分析しています。
そして、その音色をどのように感じるか被験者に評価させています。
「図10 倍音構成とボーイングパラメータ」にスペクトル分析結果が出ていますが、「弓速50cm/s,サウンドポイント3cm,弓圧40gf」という、有意な測定結果のうち最も弓速が速く、弓圧が弱い場合にのみ、基音より2次倍音が大きくなっており、他のケースではすべて基音より2次倍音は小さくなっています。この条件での被験者の音色の評価は「潤いのある」でした。ちゃんと楽音に聞こえていたのでしょう。
心理実験によるバイオリン演奏における音色表現語とボーイングパラメータの関連付け
渋谷恒司 菅野重樹
ttp://ci.nii.ac.jp/naid/110004695635
この実験では「ボーイング装置」を使用し、A線開放弦を、
弓圧 40,90,140(gf)
弓速 20,35,50(cm/s)
サウンディングポイント 1,3,5(cm)
の組み合わせで弾いて、その音をスペクトル分析しています。
そして、その音色をどのように感じるか被験者に評価させています。
「図10 倍音構成とボーイングパラメータ」にスペクトル分析結果が出ていますが、「弓速50cm/s,サウンドポイント3cm,弓圧40gf」という、有意な測定結果のうち最も弓速が速く、弓圧が弱い場合にのみ、基音より2次倍音が大きくなっており、他のケースではすべて基音より2次倍音は小さくなっています。この条件での被験者の音色の評価は「潤いのある」でした。ちゃんと楽音に聞こえていたのでしょう。
例によって本題とは関係ないけど面白い文献の紹介、ありがとうございました。
貴コメントの最終段落、確かに事実を書いておられますが、皆がみな原文を読むとは限らないので誤解されないように一寸だけ補足した方が良いかな、と。
「この条件での被験者の音色の評価は」 と書かれた「この条件」とは、「弓速50cm/s,サウンドポイント3cm,弓圧40gf」のことですよね?
確かにその条件での評価として「潤いのある」に○が付いています。 音色の評価項目としては他に
・力強い
・明るい
・豊かな
も挙げられていますが、上記条件の音に対する評価としてはこれらには一点も入っていません。
一方、弓速とサウンディングポイントが同じで弓圧が高いケースでは、「潤い」に加えてこれらの評価項目についても点が入っています。
> ちゃんと楽音に聞こえていたのでしょう。
には一応同意します。 条件によって「評価なし」とされた音も多数あり、これらは楽音として評価に値しない、ということらしいです。 即ち、僅かでも「潤いのある」に点が入ったのは、(少なくとも一部の被験者からは)楽音と認められたということなのでしょう。
[41943]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月17日 01:40
投稿者:カルボナーレ(ID:EnE4GYc)
catgutさん
今回は、実はcatgutさん説を否定するような論文を探しだしてこられましたね。
(個人的には、当たり前のことを流行の”感性”を使ってまとめた、学生の論文に見えます。)
catgutさんがピックアップした、「潤いのある」という表現では、最大でも一重丸(評価なしを含める5段階評価の3)しかなく、また評価があるところを見ると、S.P.が3cmのところに集中しています。S.P.が3cmであれば、弓速と弓圧のバランスがとれればOKに見えます。
「潤いのある」の一重丸評価は、弓速と弓圧の組として
1. 50cm/s, 40g
2. 35cm/s, 40g
3. 50cm/s、90g
の3つが該当します。
1.についてはスペクトルを見ると、確かに1.は基音が下がって2倍音、4倍音が基音よりも大きくなっていますが、同じ評価である3.は、基音がしっかり鳴って2倍音は基音より小さくなっています。2倍音に意味があるようには見えません。
第8図からみると、2倍音、4倍音が基本音より出ている倍音パターンは「評価なし」であり、一方、基音、4倍音がよく出ているパターンが「明るい」という評価、となっています。
また、力強い/明るい/豊かな、と表現される音のグループは、主には弓圧が90gと140gであり、それには、弓の圧力がかかせないことがわかります。
さらに、S.P.が5の場合(指板に入った極端な指板寄り)では、どう弾いても、印象がない、あるいはマイナスイメージの音になることがわかります。唯一少しだけよい評価は、圧力は軽くてスピードを早くした時だけです。
もっとも明るい(二重丸)のは、S.P.=1cm(駒寄り)を弓速が20cm/s(遅い)で、弓圧が140g(強い)の時です。
ということで、速く軽い弓で得られる、2倍音が強調された音については、印象に残らない音、というのがこの論文の結論ととるべきでしょう。
さらに指板寄りになると、まったく印象に残らない、という結論です。
また、駒寄りのsurface sound(上滑りの音)は、か細い、かわいた、軽やかな、やせたという印象になることがわかります。
今回は、実はcatgutさん説を否定するような論文を探しだしてこられましたね。
(個人的には、当たり前のことを流行の”感性”を使ってまとめた、学生の論文に見えます。)
catgutさんがピックアップした、「潤いのある」という表現では、最大でも一重丸(評価なしを含める5段階評価の3)しかなく、また評価があるところを見ると、S.P.が3cmのところに集中しています。S.P.が3cmであれば、弓速と弓圧のバランスがとれればOKに見えます。
「潤いのある」の一重丸評価は、弓速と弓圧の組として
1. 50cm/s, 40g
2. 35cm/s, 40g
3. 50cm/s、90g
の3つが該当します。
1.についてはスペクトルを見ると、確かに1.は基音が下がって2倍音、4倍音が基音よりも大きくなっていますが、同じ評価である3.は、基音がしっかり鳴って2倍音は基音より小さくなっています。2倍音に意味があるようには見えません。
第8図からみると、2倍音、4倍音が基本音より出ている倍音パターンは「評価なし」であり、一方、基音、4倍音がよく出ているパターンが「明るい」という評価、となっています。
また、力強い/明るい/豊かな、と表現される音のグループは、主には弓圧が90gと140gであり、それには、弓の圧力がかかせないことがわかります。
さらに、S.P.が5の場合(指板に入った極端な指板寄り)では、どう弾いても、印象がない、あるいはマイナスイメージの音になることがわかります。唯一少しだけよい評価は、圧力は軽くてスピードを早くした時だけです。
もっとも明るい(二重丸)のは、S.P.=1cm(駒寄り)を弓速が20cm/s(遅い)で、弓圧が140g(強い)の時です。
ということで、速く軽い弓で得られる、2倍音が強調された音については、印象に残らない音、というのがこの論文の結論ととるべきでしょう。
さらに指板寄りになると、まったく印象に残らない、という結論です。
また、駒寄りのsurface sound(上滑りの音)は、か細い、かわいた、軽やかな、やせたという印象になることがわかります。
[41944]
Re: 基音を減らし2倍音または3倍音を増やすとハイフェッツの音になるのか?
投稿日時:2009年11月17日 07:45
投稿者:catgut(ID:J5FmRBI)
私がちょっとやってみただけでも「軽く速い弓」で2次倍音が強まることは明確にデータが取れるのですから、ハイフェッツらがこの音を活かしたのは当然でしょう。
ヨーロッパのオーケストラの音量規制関連でも以前紹介させて頂きましたが、ヨーロッパで活動されているピアニストで、ヴァイオリンも弾かれる領家幸様がブログで2006年05月14日に以下のように書かれています。
ttp://blog.livedoor.jp/koryoke/archives/50609821.html
ヴァイオリンの古い(つまり今時流行らない)奏法では、弓の自然な重みを弦に載せて滑らせるだけ、ボーイング(弓使い)はその自然な滑りが、フレージングと一致するように巧みにコントロールするだけだそうです。本当に滑らかな旋律線で、また弓速が速い(地球の重力加速度というのは、人間の力より遥かに偉大だ、とピアノの場合でも思います。)ので倍音が沢山載った良く響く奏法です。
奇妙ですが、ヴァイオリンのこういう古い奏法でも、良く響いているけれど何の音だか分からないという響きになり、古い録音でヴァイオリンとピアノのDuoを聞くと、どの旋律がどっちの楽器から出てくるのか分からないようなことが、しばしばあります。一緒に同じ響きの中で渾然一体となって、やっぱり本当に美しいです。
私の教えてる子供達は、Suzukiで知合った子供が多く、ヴァイオリンも弾いています。今は皆次の先生に進んでいますが、幸いなことに古い奏法の先生は色んな所におられて、そういうヴァイオリンの先生についてる子供達は、私が要求することもヴァイオリンのレッスンで要求されることも”同じだ!”なので、全く問題がない(どころか、両方一緒に進みますが)のですが、運悪く”(バリバリ)弾いてしまう”型の先生の所に行くと、ピアノとヴァイオリンで全く違うことを要求されますから、混乱や矛盾が起こります。
Tabeaは運悪く、バリバリ型の極のような流派に進んだので、その先生に進んだ時から、早晩手放さなければならない、と思っていました。
ヨーロッパのオーケストラの音量規制関連でも以前紹介させて頂きましたが、ヨーロッパで活動されているピアニストで、ヴァイオリンも弾かれる領家幸様がブログで2006年05月14日に以下のように書かれています。
ttp://blog.livedoor.jp/koryoke/archives/50609821.html
ヴァイオリンの古い(つまり今時流行らない)奏法では、弓の自然な重みを弦に載せて滑らせるだけ、ボーイング(弓使い)はその自然な滑りが、フレージングと一致するように巧みにコントロールするだけだそうです。本当に滑らかな旋律線で、また弓速が速い(地球の重力加速度というのは、人間の力より遥かに偉大だ、とピアノの場合でも思います。)ので倍音が沢山載った良く響く奏法です。
奇妙ですが、ヴァイオリンのこういう古い奏法でも、良く響いているけれど何の音だか分からないという響きになり、古い録音でヴァイオリンとピアノのDuoを聞くと、どの旋律がどっちの楽器から出てくるのか分からないようなことが、しばしばあります。一緒に同じ響きの中で渾然一体となって、やっぱり本当に美しいです。
私の教えてる子供達は、Suzukiで知合った子供が多く、ヴァイオリンも弾いています。今は皆次の先生に進んでいますが、幸いなことに古い奏法の先生は色んな所におられて、そういうヴァイオリンの先生についてる子供達は、私が要求することもヴァイオリンのレッスンで要求されることも”同じだ!”なので、全く問題がない(どころか、両方一緒に進みますが)のですが、運悪く”(バリバリ)弾いてしまう”型の先生の所に行くと、ピアノとヴァイオリンで全く違うことを要求されますから、混乱や矛盾が起こります。
Tabeaは運悪く、バリバリ型の極のような流派に進んだので、その先生に進んだ時から、早晩手放さなければならない、と思っていました。
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