[153]
PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)
投稿日時:2001年06月24日 20:18
投稿者:克彦(ID:QnE2cBc)
こちらのフォーラムには初めて参加いたします,札幌の克彦です。皆様よろしくお願いします。
札幌では,7月7日からPMF(パシフィックミュージックフェスティバル)が行なわれます。PMFは,偉大な指揮者・作曲家であった故レナード・バーンスタインの提唱により1990年に創設された「教育音楽祭」です。約1ヶ月の期間中,世界中から選抜された若い音楽家が,ウィーンフィルをはじめとした世界的なオーケストラの首席奏者が名を連ねるPMF教授陣から,最高レベルの音楽教育を受けながら,コンサート活動を行ないます。
札幌の音楽ファンにとって,この時期は,将来を担う若手演奏家のフレッシュな演奏と,既に世界的な名声と実績のある有名演奏家(有名オーケストラ)の演奏が聞ける非常に楽しみな1ヶ月です。
PMFは,札幌の誇るKitaraホール(音響の良さは,ウィーンフィルの首席奏者の方々も認めておられます)における本格的なコンサートだけでなく,普段クラシックを聴かない人でも楽しめるような親しみやすいプログラムの楽しいコンサートが,札幌芸術の森において開催されています。しかも,わずか1,000円という安さです。
世界中から集まって来た音楽学生達を指導されるPMF教授の方々は,指導の合間に演奏会を開催してくれます。先ほども申しましたが,PMFの教授には,世界に名だたるウィーンフィルの首席奏者をはじめ,日本や海外の一流演奏家が名を連ねておられます。
教授の方々のコンサートは多数ありますが,今日はその中から,ヴァイオリン関連の興味深いコンサートをご紹介いたします。これは,ミニトーク付きコンサートと呼ばれるもので,演奏者自身による簡単な曲目解説があり(外国人の場合は通訳付きで),途中休憩のない約60分のコンサートです。
①7月8日(日)13:30~14:30 札幌芸術の森アリーナ(300人程度を収容できる室内練習場です)
ウィーンフィルのコンサートマスター ヴェルナー・ヒンク氏(58歳)によるヴァイオリンリサイタル(ピアノ伴奏付き)
曲目:ウィーンの作曲家であるシューベルトの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 D574」と「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ イ短調 D385」他
僕は,昨年のPMFで,ヒンク氏のミニトーク付きコンサート(バッハの無伴奏ソナタ第1番ト短調,ブラームスのヴァイオリンソナタ第3番ニ短調)を,同じく芸術の森のアリーナで聞きましたが,音色が美しく,また,力強い演奏で,さすがウィーンフィルのコンサートマスターだな~,ということを実感した次第です。ヒンク氏は,愛用の1709年製ストラディヴァリウスから,氏の人柄を偲ばせるような温かくて美しい音を引きだし,さらに,聴衆の心に直接訴えるような表現力に富んだ演奏を聴かせてくれました。ヒンク氏のような名演奏家を1,000円で聴けるというのは,全く夢のような話です。教育音楽祭PMFならではの,ぜいたくな楽しみと言えるでしょう。僕は,演奏会の後,ヒンク氏にサインをしていただき,さらに握手までしていただいたのですが,演奏中の気迫のこもった表情とはうって変わって,温和な表情をされていたのが印象的でした。
なお,ヒンク氏は,最近,シューベルトのヴァイオリンとピアノのための作品を収めたCDをリリースしました。僕は,当日の演奏曲目の予習ということで,そのCD(カメラータ・トウキョウから発売中)を買って聴いてみました。最近の若手の実力派(ヴェンゲーロフ,レーピンなど)の艶やかな(輝かしい)美音とはだいぶ異なる,柔らかく温かい音色です。また,シューベルトということで,演奏は極端さを避けたマイルドなもので,ゆったりとした気持ちで聴けます。なお,CDの収録曲は,シューベルトのヴァイオリンソナタイ長調D574,華麗なるロンドロ短調D895,幻想曲ハ長調D934です。特に,大曲である幻想曲ハ長調の演奏は,全体を通してしっかりとした構成感があり,ダイナミックで素晴らしい演奏だと思いました。伴奏者のピアノの音も美しく,ヴァイオリンとピアノの息も良く合っており,聴き応えのあるCDだと思います。ヒンク氏はこのCDのリリースにより,シューベルトの室内楽作品の録音をすべて完了したとのことです。当日の演奏が非常に楽しみです。
②7月21日(土)12:15~13:15 札幌芸術の森アリーナ
日本を代表するオーケストラであるNHK交響楽団(通称N響)のコンサートマスター 堀 正文氏によるヴァイオリンと,ロサンゼルスフィル首席コントラバス奏者のデニス・トレンブリー氏によるコントラバスのリサイタル(ピアノ伴奏付き)
曲目 ウィーン生まれの大ヴァイオリニストであるフリッツ・クライスラー(1875~1962年)が作曲した大変親しみやすいヴァイオリン曲 「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」「愛の喜び」他
N響のコンサートマスターである堀 正文(ほり まさふみ)氏は,今年52才になるヴァイオリニストです。N饗のコンサートマスターをこなしながら,ソロのリサイタルや室内楽も行なっておられます。クライスラーの洒落た小品を堀氏がどのように演奏されるか,非常に楽しみです。なお,堀氏もストラディヴァリウスの名器を愛用されているとのことです。僕が数年前にN響の演奏会を聴きにいったときのコンサートマスターが,堀氏でした。その時の演奏会では,オーケストラ全体をリードするかのような氏の張りのある美しい音が随所で聞こえてきて,後からそれが堀 正文氏だとわかったときには,ぜひ,ソロ演奏を聴いてみたいと思いました。今回はそれが実現するので(しかも,僕の大好きなクライスラーの小品なので)非常にうれしいです。
芸術の森のアリーナは,大きさ的には,小さな体育館のような建物(見た目は近代的で美しい建物です)で,普段は札幌交響楽団(札幌を本拠地とするプロのオーケストラ)の練習などに使われており,天井が非常に高くて音響は良好です。ステージはなく,床の上にパイプ椅子が置かれており,演奏家と聴衆は同じ床面を共有します。そのため,すぐ目の前で演奏を聴くことができるのです。これは,コンサートホールなどでは味わえないもので,臨場感・迫力が全然違います。また,名演奏家の高度なテクニックを間近に見ることができるので,僕のようにヴァイオリンを弾く者には,とても勉強になります。
また,普段は遠くからしか見られない貴重なヴァイオリンを間近に見ることができます。ご存知のとおり,ストラディヴァリウスは,音を出す「楽器」として最高の評価を得ているだけでなく,芸術品としての価値もある,大変美しい楽器です。作られてから約300年が経過し音色が熟成していることもあって,最高のヴァイオリンという評価を得ていますが,その出来映え(見た目)も,まさに芸術品です。ストラディヴァリウスは,現在,世界に約600台しかないと言われてますが,そのうち演奏会での使用が可能なものは3分の1以下と大変貴重なため,時価数億円以上の値がつけられています。特に,名演奏家が使用する楽器は,特に厳選されたコンディションの良い楽器なので,音色だけでなく,見た目の美しさも格別のものです。
大ホールでのこうした名演奏家のコンサートは,通常は10,000円ぐらいかかりますが,PMFのミニトーク付きコンサートだと,わずか1,000円という低価格で聴くことができます。
会場である「札幌芸術の森」は,札幌市の郊外にあり,広い駐車場があります。その名の通り全体が森の中にあり,緑に囲まれた美しい景観や自然に調和するように配置された彫刻作品も楽しみのひとつです。芸術の森には,野外コンサートのステージも用意されており,PMFのピクニックコンサート(芝生の上に座って,食べ物や飲み物を片手に音楽が楽しめます)が行なわれます。なお,アリーナでの演奏は屋内での演奏ですので,雨による中止の心配は全くありません。
このミニトーク付きコンサートは,全席自由のため,座席は当日会場前に並んだ順となります。僕は,なるべく前の方で聴きたい(見たい)ので30分以上前には並ぶようにしています。
この時期の札幌は,あまり雨が降らず,また,昼間の気温が25度,湿度は50%以下とからっとしており,非常に心地よく過ごしやすい気候です。
クラシックコンサート専用ホール「キタラ」(音響だけでなく,見た目も素晴らしいホールです)でも,数多くのPMF関連のコンサートが行なわれますので,この時期に札幌にいらっしゃる方は,ぜひ,PMFのコンサートをお聴きになって下さい。
それでは,また。
札幌では,7月7日からPMF(パシフィックミュージックフェスティバル)が行なわれます。PMFは,偉大な指揮者・作曲家であった故レナード・バーンスタインの提唱により1990年に創設された「教育音楽祭」です。約1ヶ月の期間中,世界中から選抜された若い音楽家が,ウィーンフィルをはじめとした世界的なオーケストラの首席奏者が名を連ねるPMF教授陣から,最高レベルの音楽教育を受けながら,コンサート活動を行ないます。
札幌の音楽ファンにとって,この時期は,将来を担う若手演奏家のフレッシュな演奏と,既に世界的な名声と実績のある有名演奏家(有名オーケストラ)の演奏が聞ける非常に楽しみな1ヶ月です。
PMFは,札幌の誇るKitaraホール(音響の良さは,ウィーンフィルの首席奏者の方々も認めておられます)における本格的なコンサートだけでなく,普段クラシックを聴かない人でも楽しめるような親しみやすいプログラムの楽しいコンサートが,札幌芸術の森において開催されています。しかも,わずか1,000円という安さです。
世界中から集まって来た音楽学生達を指導されるPMF教授の方々は,指導の合間に演奏会を開催してくれます。先ほども申しましたが,PMFの教授には,世界に名だたるウィーンフィルの首席奏者をはじめ,日本や海外の一流演奏家が名を連ねておられます。
教授の方々のコンサートは多数ありますが,今日はその中から,ヴァイオリン関連の興味深いコンサートをご紹介いたします。これは,ミニトーク付きコンサートと呼ばれるもので,演奏者自身による簡単な曲目解説があり(外国人の場合は通訳付きで),途中休憩のない約60分のコンサートです。
①7月8日(日)13:30~14:30 札幌芸術の森アリーナ(300人程度を収容できる室内練習場です)
ウィーンフィルのコンサートマスター ヴェルナー・ヒンク氏(58歳)によるヴァイオリンリサイタル(ピアノ伴奏付き)
曲目:ウィーンの作曲家であるシューベルトの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 D574」と「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ イ短調 D385」他
僕は,昨年のPMFで,ヒンク氏のミニトーク付きコンサート(バッハの無伴奏ソナタ第1番ト短調,ブラームスのヴァイオリンソナタ第3番ニ短調)を,同じく芸術の森のアリーナで聞きましたが,音色が美しく,また,力強い演奏で,さすがウィーンフィルのコンサートマスターだな~,ということを実感した次第です。ヒンク氏は,愛用の1709年製ストラディヴァリウスから,氏の人柄を偲ばせるような温かくて美しい音を引きだし,さらに,聴衆の心に直接訴えるような表現力に富んだ演奏を聴かせてくれました。ヒンク氏のような名演奏家を1,000円で聴けるというのは,全く夢のような話です。教育音楽祭PMFならではの,ぜいたくな楽しみと言えるでしょう。僕は,演奏会の後,ヒンク氏にサインをしていただき,さらに握手までしていただいたのですが,演奏中の気迫のこもった表情とはうって変わって,温和な表情をされていたのが印象的でした。
なお,ヒンク氏は,最近,シューベルトのヴァイオリンとピアノのための作品を収めたCDをリリースしました。僕は,当日の演奏曲目の予習ということで,そのCD(カメラータ・トウキョウから発売中)を買って聴いてみました。最近の若手の実力派(ヴェンゲーロフ,レーピンなど)の艶やかな(輝かしい)美音とはだいぶ異なる,柔らかく温かい音色です。また,シューベルトということで,演奏は極端さを避けたマイルドなもので,ゆったりとした気持ちで聴けます。なお,CDの収録曲は,シューベルトのヴァイオリンソナタイ長調D574,華麗なるロンドロ短調D895,幻想曲ハ長調D934です。特に,大曲である幻想曲ハ長調の演奏は,全体を通してしっかりとした構成感があり,ダイナミックで素晴らしい演奏だと思いました。伴奏者のピアノの音も美しく,ヴァイオリンとピアノの息も良く合っており,聴き応えのあるCDだと思います。ヒンク氏はこのCDのリリースにより,シューベルトの室内楽作品の録音をすべて完了したとのことです。当日の演奏が非常に楽しみです。
②7月21日(土)12:15~13:15 札幌芸術の森アリーナ
日本を代表するオーケストラであるNHK交響楽団(通称N響)のコンサートマスター 堀 正文氏によるヴァイオリンと,ロサンゼルスフィル首席コントラバス奏者のデニス・トレンブリー氏によるコントラバスのリサイタル(ピアノ伴奏付き)
曲目 ウィーン生まれの大ヴァイオリニストであるフリッツ・クライスラー(1875~1962年)が作曲した大変親しみやすいヴァイオリン曲 「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」「愛の喜び」他
N響のコンサートマスターである堀 正文(ほり まさふみ)氏は,今年52才になるヴァイオリニストです。N饗のコンサートマスターをこなしながら,ソロのリサイタルや室内楽も行なっておられます。クライスラーの洒落た小品を堀氏がどのように演奏されるか,非常に楽しみです。なお,堀氏もストラディヴァリウスの名器を愛用されているとのことです。僕が数年前にN響の演奏会を聴きにいったときのコンサートマスターが,堀氏でした。その時の演奏会では,オーケストラ全体をリードするかのような氏の張りのある美しい音が随所で聞こえてきて,後からそれが堀 正文氏だとわかったときには,ぜひ,ソロ演奏を聴いてみたいと思いました。今回はそれが実現するので(しかも,僕の大好きなクライスラーの小品なので)非常にうれしいです。
芸術の森のアリーナは,大きさ的には,小さな体育館のような建物(見た目は近代的で美しい建物です)で,普段は札幌交響楽団(札幌を本拠地とするプロのオーケストラ)の練習などに使われており,天井が非常に高くて音響は良好です。ステージはなく,床の上にパイプ椅子が置かれており,演奏家と聴衆は同じ床面を共有します。そのため,すぐ目の前で演奏を聴くことができるのです。これは,コンサートホールなどでは味わえないもので,臨場感・迫力が全然違います。また,名演奏家の高度なテクニックを間近に見ることができるので,僕のようにヴァイオリンを弾く者には,とても勉強になります。
また,普段は遠くからしか見られない貴重なヴァイオリンを間近に見ることができます。ご存知のとおり,ストラディヴァリウスは,音を出す「楽器」として最高の評価を得ているだけでなく,芸術品としての価値もある,大変美しい楽器です。作られてから約300年が経過し音色が熟成していることもあって,最高のヴァイオリンという評価を得ていますが,その出来映え(見た目)も,まさに芸術品です。ストラディヴァリウスは,現在,世界に約600台しかないと言われてますが,そのうち演奏会での使用が可能なものは3分の1以下と大変貴重なため,時価数億円以上の値がつけられています。特に,名演奏家が使用する楽器は,特に厳選されたコンディションの良い楽器なので,音色だけでなく,見た目の美しさも格別のものです。
大ホールでのこうした名演奏家のコンサートは,通常は10,000円ぐらいかかりますが,PMFのミニトーク付きコンサートだと,わずか1,000円という低価格で聴くことができます。
会場である「札幌芸術の森」は,札幌市の郊外にあり,広い駐車場があります。その名の通り全体が森の中にあり,緑に囲まれた美しい景観や自然に調和するように配置された彫刻作品も楽しみのひとつです。芸術の森には,野外コンサートのステージも用意されており,PMFのピクニックコンサート(芝生の上に座って,食べ物や飲み物を片手に音楽が楽しめます)が行なわれます。なお,アリーナでの演奏は屋内での演奏ですので,雨による中止の心配は全くありません。
このミニトーク付きコンサートは,全席自由のため,座席は当日会場前に並んだ順となります。僕は,なるべく前の方で聴きたい(見たい)ので30分以上前には並ぶようにしています。
この時期の札幌は,あまり雨が降らず,また,昼間の気温が25度,湿度は50%以下とからっとしており,非常に心地よく過ごしやすい気候です。
クラシックコンサート専用ホール「キタラ」(音響だけでなく,見た目も素晴らしいホールです)でも,数多くのPMF関連のコンサートが行なわれますので,この時期に札幌にいらっしゃる方は,ぜひ,PMFのコンサートをお聴きになって下さい。
それでは,また。
ヴァイオリン掲示板に戻る
[ 8コメント ]
【ご参考】
[154]
Re: PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)
投稿日時:2001年06月25日 00:21
投稿者:yc(ID:QnE2cBc)
PMFの季節ですねぇ(意味不明)。
去年だったかPMFの教育プログラムをプロデュースした方が
欧州で青少年に歌舞伎を紹介するイベントをやってこれも大成功だったとか。
それにしても詳細なレポート、ありがとうございます。
堀氏の演奏は楽しみです。残念ながら札幌まで聴きに行くことは
叶わなそうですが、是非テレビ放映してくれることを願います。
堀氏の演奏は室内楽やモーツァルトの協奏曲のソロの演奏を
拝聴したことがありますが、非常に美しく端正な音楽だと思いました。
ご本人はグリュミオー等、フランス=ベルギー派を理想とされているとか。
もしお聴きになられたら是非また感想等お聞かせ頂けたらと思います。
楽しみにしています。
去年だったかPMFの教育プログラムをプロデュースした方が
欧州で青少年に歌舞伎を紹介するイベントをやってこれも大成功だったとか。
それにしても詳細なレポート、ありがとうございます。
堀氏の演奏は楽しみです。残念ながら札幌まで聴きに行くことは
叶わなそうですが、是非テレビ放映してくれることを願います。
堀氏の演奏は室内楽やモーツァルトの協奏曲のソロの演奏を
拝聴したことがありますが、非常に美しく端正な音楽だと思いました。
ご本人はグリュミオー等、フランス=ベルギー派を理想とされているとか。
もしお聴きになられたら是非また感想等お聞かせ頂けたらと思います。
楽しみにしています。
[171]
ヴェルナー・ヒンク氏の演奏会
投稿日時:2001年07月09日 21:08
投稿者:克彦(ID:QWAlCXQ)
こんばんは,札幌の克彦です。
7月8日(日)に札幌芸術の森アリーナ(300人程度を収容できる室内練習場です)で行なわれた,PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)のミニ・トーク付きコンサートに行ってきました。
これは,ウィーンフィルのコンサートマスターであるヴェルナー・ヒンク氏(58歳)によるヴァイオリンリサイタル(ピアノ伴奏付き)で,曲目は,シューベルトの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 D574」,「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ イ短調 D385」,「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ ト短調 D408」でした。
生演奏とCDの演奏の印象がどれくらい異なるかを確かめるために,僕は,予め,ヒンク氏が最近リリースしたシューベルトのヴァイオリンとピアノのための作品を収めたCDを買って何度も聴いておきました。なお,ヒンク氏は,シューベルトの室内楽作品を得意としており,弦楽四重奏「死と乙女」の録音は,レコードアカデミー賞を受賞しています。
札幌芸術の森のアリーナは,大きさ的には,小さな体育館のような建物(見た目は近代的で美しい建物です)で,普段は札幌交響楽団(札幌を本拠地とするプロのオーケストラ)の練習などに使われており,天井が非常に高くて音響は良好です。ステージはなく,床の上にパイプ椅子が置かれており,演奏家と聴衆は同じ床面を共有します。そのため,すぐ目の前で演奏を聴くことができるのです。これは,コンサートホールなどでは味わえないもので,臨場感・迫力が全然違います。また,名演奏家の高度なテクニックを間近に見ることができるので,僕のようにヴァイオリンを弾く者には,とても勉強になります。
全席自由席なのですが,開演の50分以上前に並んだので,最前列で聴くことができました。ヒンク氏からわずか2.5メートルという近さです。
さて,実際に間近で聴いた印象ですが,すぐそばで聴いても音色が柔らかくて心地良い響きですが,要所要所では力強い表現もあり,非常に迫力がありました。すべてシューベルトの曲ということもあり,ヴァイオリンの能力の限界まで鳴らしきるようなことはありませんでしたが,伴奏者の弾くスタインウェイのフルコンサートグランドピアノを越えてソロヴァイオリンの音がはっきりと聞こえました。最弱音での柔らかい音でもはっきりと聞こえます。
これくらい近いと弓の毛が弦をこする音が時々聞こえてきますが,けして耳障りではありませんでした。また,クレッシェンド,ディミヌェンド,アクセントなど表情のつけ方や,スピカート,スタカートなどのボウイングのコツが,とても良くわかりました。
今回の曲目は,超絶技巧が求められるような難しい曲ではなく,むしろ,基本的なテクニックだけで弾ける(技術的には)比較的平易な曲だったので,すぐそばで見ることが出来て非常に良いイメージトレーニングができました。
ヒンク氏の演奏は,CDで聴く以上に音色が柔らかくて温かく,表現力に富んだ演奏でした。繰り返しの部分などに微妙な変化をつけているのが良くわかりました。CDの方が,技術的には完璧な演奏ですが,生演奏の方が表情に富んで聴こえるので,より魅力的だと思います。
音を間違えずに弾くとか,指の回り(トリルや速いパッセージ)といった面では,時々怪しいところがありましたが,音楽全体の構成力,微妙な表現力があるので,そういったことがあまり気になりませんでした。
ヒンク氏は,1709年製ストラディヴァリウスを愛用されています。その楽器もすぐそばで見たのですが,約300年が経過した楽器とは思えないほどに楽器の健康状態が良く,非常に大切に扱われてきた楽器だということを実感しました。
裏板は1枚板で,すごく深い杢というわけではありませんが,ストラディヴァリウスらしい芸術的な裏板でした。横板の杢はとても深く,やや狭い間隔で垂直に等間隔に入っており,非常に美しい杢でした。ニスの色は,やや黄色気味の茶色(イエローブラウン)で,オリジナルのニスが全面に多く残っているように見えます。長く使われてきたオールド楽器の場合,楽器の右肩部分(表板と横板)のニスは,汗の影響で変色したり,磨り減っていたり,ニスの塗り直しが行なわれていますが,ヒンク氏のストラディヴァリウスは,そういうことが一切なくて,非常に美しい状態が保たれていました。その他の部分のニスも特に減っているところはないようで,極めて保存状態が良いことがわかります。スクロールは,調弦のさいに毎回手が触れるために,磨り減りやすい部分ですが,約300年が経過した楽器とは思えないほどに美しい状態が保たれており,横板と同様に,深い杢が印象的でした。
ストラディヴァリウスの中でも特に優秀なものに使われている材料は,音響的に優れているだけでなく,見た目も美しいものが多いですが,ヒンク氏のストラディヴァリウスは,見た目と音響の両面で,非常に優れた材料が使われてました。
最近は,森林資源が枯渇しつつあるので,ヒンク氏のストラディヴァリウスのように,惚れ惚れするようなくらいに美しく整った木目や深い杢を持つ材料を入手するのは年々難しくなっており,そういう材料が使われている新作ヴァイオリンには,滅多に出会えない状況です。
僕は,これまでに,一流ソリストのストラディヴァリウスを何本も見てきましたが,これほど健康状態の良いストラディヴァリウスというのは,あまりないのではないかと思います。修理や調整のさいにエフ字孔の輪郭がキズついたり,少し歪んだりしているオールド楽器が多いのですが,ヒンク氏のストラディヴァリウスのエフ字孔は,均整のとれた美しい状態が完全に保たれており,非常に芸術的でした。ソロ楽器に必要な音量が十分にあり,柔らかい音から鋭くて力強い音まで,非常に良く透る音色なので,理想的な楽器だと思います。
なお,4点セット(あご当て,ペグ,テールピース,エンドピン)は,CROWSONの最高級ボックスウッド(つげ)がセットされていました。やはり,名器には,最高級ボックスウッドの部品が似合いますね。
演奏会の終了後,外に出て来られたヒンク氏に,サインと握手をしていただきました。サインは,前述のヒンク氏の最新CDに直接していただきました。ヒンク氏は,自分のCDのジャケットの写真(ヒンク氏がストラディヴァリウスを持ってピアニストの横に立っている写真)を見たときに,うれしそうな顔をして,快くサインをしてくれました。
ヒンク氏は,身長は178センチくらいで,痩せても太ってもいない中庸の体型でした。手は特別に大きくはないものの,やはり,日本人の平均的な手よりは大きく,指が少し太く,手が柔らかく感じられました。
PMFでは,7月21日(土)にN響コンサートマスターの堀 正文さんのミニトーク付きコンサートがあるのですが,曲目が決まりました。クライスラーの「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」「愛の喜び」,パガニーニの「こんなに胸騒ぎが」による変奏曲,クロールの「バンジョーとフィドル」です。どの曲も見て・聴いて楽しい曲なので,当日が待ち遠しいです。また,最前列で聴きたいと思っています。
ycさんは,パガニーニコンクールの優勝者の演奏会に行かれるとのことですね。パガニーニコンクールの優勝者だと,かなりヴィルテュオーゾ的な演奏会になりそうですね。
それでは,また。
7月8日(日)に札幌芸術の森アリーナ(300人程度を収容できる室内練習場です)で行なわれた,PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)のミニ・トーク付きコンサートに行ってきました。
これは,ウィーンフィルのコンサートマスターであるヴェルナー・ヒンク氏(58歳)によるヴァイオリンリサイタル(ピアノ伴奏付き)で,曲目は,シューベルトの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 D574」,「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ イ短調 D385」,「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ ト短調 D408」でした。
生演奏とCDの演奏の印象がどれくらい異なるかを確かめるために,僕は,予め,ヒンク氏が最近リリースしたシューベルトのヴァイオリンとピアノのための作品を収めたCDを買って何度も聴いておきました。なお,ヒンク氏は,シューベルトの室内楽作品を得意としており,弦楽四重奏「死と乙女」の録音は,レコードアカデミー賞を受賞しています。
札幌芸術の森のアリーナは,大きさ的には,小さな体育館のような建物(見た目は近代的で美しい建物です)で,普段は札幌交響楽団(札幌を本拠地とするプロのオーケストラ)の練習などに使われており,天井が非常に高くて音響は良好です。ステージはなく,床の上にパイプ椅子が置かれており,演奏家と聴衆は同じ床面を共有します。そのため,すぐ目の前で演奏を聴くことができるのです。これは,コンサートホールなどでは味わえないもので,臨場感・迫力が全然違います。また,名演奏家の高度なテクニックを間近に見ることができるので,僕のようにヴァイオリンを弾く者には,とても勉強になります。
全席自由席なのですが,開演の50分以上前に並んだので,最前列で聴くことができました。ヒンク氏からわずか2.5メートルという近さです。
さて,実際に間近で聴いた印象ですが,すぐそばで聴いても音色が柔らかくて心地良い響きですが,要所要所では力強い表現もあり,非常に迫力がありました。すべてシューベルトの曲ということもあり,ヴァイオリンの能力の限界まで鳴らしきるようなことはありませんでしたが,伴奏者の弾くスタインウェイのフルコンサートグランドピアノを越えてソロヴァイオリンの音がはっきりと聞こえました。最弱音での柔らかい音でもはっきりと聞こえます。
これくらい近いと弓の毛が弦をこする音が時々聞こえてきますが,けして耳障りではありませんでした。また,クレッシェンド,ディミヌェンド,アクセントなど表情のつけ方や,スピカート,スタカートなどのボウイングのコツが,とても良くわかりました。
今回の曲目は,超絶技巧が求められるような難しい曲ではなく,むしろ,基本的なテクニックだけで弾ける(技術的には)比較的平易な曲だったので,すぐそばで見ることが出来て非常に良いイメージトレーニングができました。
ヒンク氏の演奏は,CDで聴く以上に音色が柔らかくて温かく,表現力に富んだ演奏でした。繰り返しの部分などに微妙な変化をつけているのが良くわかりました。CDの方が,技術的には完璧な演奏ですが,生演奏の方が表情に富んで聴こえるので,より魅力的だと思います。
音を間違えずに弾くとか,指の回り(トリルや速いパッセージ)といった面では,時々怪しいところがありましたが,音楽全体の構成力,微妙な表現力があるので,そういったことがあまり気になりませんでした。
ヒンク氏は,1709年製ストラディヴァリウスを愛用されています。その楽器もすぐそばで見たのですが,約300年が経過した楽器とは思えないほどに楽器の健康状態が良く,非常に大切に扱われてきた楽器だということを実感しました。
裏板は1枚板で,すごく深い杢というわけではありませんが,ストラディヴァリウスらしい芸術的な裏板でした。横板の杢はとても深く,やや狭い間隔で垂直に等間隔に入っており,非常に美しい杢でした。ニスの色は,やや黄色気味の茶色(イエローブラウン)で,オリジナルのニスが全面に多く残っているように見えます。長く使われてきたオールド楽器の場合,楽器の右肩部分(表板と横板)のニスは,汗の影響で変色したり,磨り減っていたり,ニスの塗り直しが行なわれていますが,ヒンク氏のストラディヴァリウスは,そういうことが一切なくて,非常に美しい状態が保たれていました。その他の部分のニスも特に減っているところはないようで,極めて保存状態が良いことがわかります。スクロールは,調弦のさいに毎回手が触れるために,磨り減りやすい部分ですが,約300年が経過した楽器とは思えないほどに美しい状態が保たれており,横板と同様に,深い杢が印象的でした。
ストラディヴァリウスの中でも特に優秀なものに使われている材料は,音響的に優れているだけでなく,見た目も美しいものが多いですが,ヒンク氏のストラディヴァリウスは,見た目と音響の両面で,非常に優れた材料が使われてました。
最近は,森林資源が枯渇しつつあるので,ヒンク氏のストラディヴァリウスのように,惚れ惚れするようなくらいに美しく整った木目や深い杢を持つ材料を入手するのは年々難しくなっており,そういう材料が使われている新作ヴァイオリンには,滅多に出会えない状況です。
僕は,これまでに,一流ソリストのストラディヴァリウスを何本も見てきましたが,これほど健康状態の良いストラディヴァリウスというのは,あまりないのではないかと思います。修理や調整のさいにエフ字孔の輪郭がキズついたり,少し歪んだりしているオールド楽器が多いのですが,ヒンク氏のストラディヴァリウスのエフ字孔は,均整のとれた美しい状態が完全に保たれており,非常に芸術的でした。ソロ楽器に必要な音量が十分にあり,柔らかい音から鋭くて力強い音まで,非常に良く透る音色なので,理想的な楽器だと思います。
なお,4点セット(あご当て,ペグ,テールピース,エンドピン)は,CROWSONの最高級ボックスウッド(つげ)がセットされていました。やはり,名器には,最高級ボックスウッドの部品が似合いますね。
演奏会の終了後,外に出て来られたヒンク氏に,サインと握手をしていただきました。サインは,前述のヒンク氏の最新CDに直接していただきました。ヒンク氏は,自分のCDのジャケットの写真(ヒンク氏がストラディヴァリウスを持ってピアニストの横に立っている写真)を見たときに,うれしそうな顔をして,快くサインをしてくれました。
ヒンク氏は,身長は178センチくらいで,痩せても太ってもいない中庸の体型でした。手は特別に大きくはないものの,やはり,日本人の平均的な手よりは大きく,指が少し太く,手が柔らかく感じられました。
PMFでは,7月21日(土)にN響コンサートマスターの堀 正文さんのミニトーク付きコンサートがあるのですが,曲目が決まりました。クライスラーの「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」「愛の喜び」,パガニーニの「こんなに胸騒ぎが」による変奏曲,クロールの「バンジョーとフィドル」です。どの曲も見て・聴いて楽しい曲なので,当日が待ち遠しいです。また,最前列で聴きたいと思っています。
ycさんは,パガニーニコンクールの優勝者の演奏会に行かれるとのことですね。パガニーニコンクールの優勝者だと,かなりヴィルテュオーゾ的な演奏会になりそうですね。
それでは,また。
[178]
Re: PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)
投稿日時:2001年07月10日 12:33
投稿者:yc(ID:JzZ5h1k)
いいですねぇ、そんな間近でお聴きになったのですか。
こう詳しくレポートして頂けるとコンサートの光景まで浮かんでくるようです。
ありがとうございます。
ロメイコのコンサートですが、曲目はパガニーニの1番でした。若々しく
バリバリっと弾き、音色は輝きがあってソリスティックでした。そうですね、
仰る通り、室内楽とはまた違う協奏曲の醍醐味を味わえました。
それではまた。堀さんのレポートも是非お願いします。楽しみにしています。
こう詳しくレポートして頂けるとコンサートの光景まで浮かんでくるようです。
ありがとうございます。
ロメイコのコンサートですが、曲目はパガニーニの1番でした。若々しく
バリバリっと弾き、音色は輝きがあってソリスティックでした。そうですね、
仰る通り、室内楽とはまた違う協奏曲の醍醐味を味わえました。
それではまた。堀さんのレポートも是非お願いします。楽しみにしています。
[179]
Re: PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)
投稿日時:2001年07月11日 19:48
投稿者:克彦(ID:IXhENhc)
ycさん,こんばんは,札幌の克彦です。
ロメイコのコンサートのレポートありがとうございます。パガニーニのヴァイオリン協奏曲のCDは多数出ていますがを,コンサートで聴く機会というのはあまり多くはないと思います。曲が曲だけに当然とも言えますが。ぜひ1度実演で聴いてみたいものです。
堀 正文さんの演奏会も最前列でじっくりと聴いて(見て)きます。それでは,また。
ロメイコのコンサートのレポートありがとうございます。パガニーニのヴァイオリン協奏曲のCDは多数出ていますがを,コンサートで聴く機会というのはあまり多くはないと思います。曲が曲だけに当然とも言えますが。ぜひ1度実演で聴いてみたいものです。
堀 正文さんの演奏会も最前列でじっくりと聴いて(見て)きます。それでは,また。
[180]
Re: PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)
投稿日時:2001年07月12日 01:56
投稿者:yc(ID:OEEJAYY)
そうそう、私はたぶん克彦さんと同じで、音楽としての鑑賞は勿論、
ヴァイオリンの演奏自体と、それから楽器にも興味があるので
コンサートでは大忙しです(目の配りどころが)。まして、自分的に
スペシャルな曲や演奏家だったりすると、まばたきをしないくらい
真剣に見ます(耳は当然全開)。感動してではなく、目が乾いて涙が
出ることも多いです。コワイかも。
ヴァイオリンの演奏自体と、それから楽器にも興味があるので
コンサートでは大忙しです(目の配りどころが)。まして、自分的に
スペシャルな曲や演奏家だったりすると、まばたきをしないくらい
真剣に見ます(耳は当然全開)。感動してではなく、目が乾いて涙が
出ることも多いです。コワイかも。
[181]
ヒンク氏のストラド
投稿日時:2001年07月14日 00:49
投稿者:克彦(ID:EHlCRnM)
こんばんは,札幌の克彦です。
ycさんへ。「音楽としての鑑賞は勿論、ヴァイオリンの演奏自体と、それから楽器にも興味があるのでコンサートでは大忙しです(目の配りどころが)。まして、自分的にスペシャルな曲や演奏家だったりすると、まばたきをしないくらい真剣に見ます(耳は当然全開)。感動してではなく、目が乾いて涙が出ることも多いです。」とのことですが,全く同感です。僕も,その演奏家の音色の素晴らしさ,表現の多彩さ,技巧のすごさに感動して涙が出そうになることがありますが,その演奏家の使用する素晴らしい楽器の美しさに感動して,胸がつまりそうになることもあります。
ワディム・レーピンのコンサート(曲は,レーピンが得意にしているチャイコフスキーのヴァイオリン・コンチェルト)で,かつて,あの偉大なサラサーテがラロの作曲した「スペイン交響曲」を初演したときに使用したと言われている1708年製ストラディヴァリウス「ルビー」を近くから見たのですが,演奏の素晴らしさとあいまって,非常に興奮し感動した想い出があります。「ルビー」は,本当に美しい楽器で,サラサーテが使用したというエピソードにふさわしい名器でした。
さて,先週のPMFのコンサートは,最前列で聴いた(見た)ので,いろんな意味で収穫が多かったです。僕は,ストラディヴァリウスが大好きで,部屋には,ストラディヴァリウス(以下略してストラド)の実物大ポスターが2枚(1704年製Betts,1724年製Abergavanny)と英国のヴァイオリン専門誌「STRAD」の2001年カレンダー(ストラディヴァリ特集)が壁にかけられています。その他には,オールドヴァイオリンの写真集を何冊か持っていて,ときどき眺めています。僕は,いまだに本物のストラドには直接触れたことはありませんが,コンサートでは,前から数列目の席から双眼鏡でじっくりと見ており,また,TVでは楽器のアップが写るので,そういうときにも,じっくりと観察しております。
そういう目で見ても,ヒンク氏の1709年製ストラディヴァリウスは,本当に極上のストラドだと思いましたた。ウィーン・フィルはウィーン・フィル専用の楽器だけを使用しているので,ヒンク氏がウィーン・フィルのコンサートマスターとして弾く時は,そのストラドは使用せず,ウィーン・フィル所有のコンサートマスター専用の楽器を使っていると思います。ストラドは,主に,ソロや室内楽の演奏のときに使用していると思います。そういう意味では,ヒンク氏のストラドは,世界中を忙しく旅している人気ソリストのストラドほどは,酷使されていないと思います。
どんなに大切に扱われたストラドでも,コーナーが欠けていたり,スクロールが磨り減っていたり,エフ字孔が多少歪んでいたり,表板や裏板に目立つキズがついていたりするものですが,ヒンク氏のストラドは,そうしたキズがほとんどなく,本当に健康状態が良くて惚れ惚れとする美しさでした。
時々,非常に貴重な楽器を使用していながら,楽器の扱い方がやや雑なソリストやコンサートマスターを見かけることがありますが(全く許せない話ですが),ヒンク氏は,楽器の扱いがすごく丁寧で(ミニトークのときや楽章間に楽器を構え直すときの楽器の扱いが本当に丁寧で模範的でした),この美しい楽器を使用するのにふさわしい演奏家だと思いました。
これまでに一流ソリストのストラドを何本も見てきましたが,ヒンク氏の1709年製ストラディヴァリウスは2・3億円で買えるクラスのストラドでないことは間違いなく,もし売りに出れば,5億円は下らないのではないかと推測しています。
昨年もヒンク氏のコンサートを聴きに行きましたが,そのときのミニ・トークで,「私が使っているこの楽器は,あの有名なストラディヴァリウスです。この楽器は1709年製で,作られた当時から既に高価でしたが,今はその何千倍,何万倍の値段で,想像もつかないくらいに高価になっています。本当に素晴らしい楽器で,きっと,バッハもストラディヴァリウスの美しい響きを知っていたと思います。今日,演奏するバッハの無伴奏ソナタ(ト短調)を,私は,ストラディヴァリウスの美しい響きが生かせるように,表情豊かに美しく弾きたいと思います。」と話されていたのを思い出しました。その時の演奏も美しく感銘深い演奏でしたが,ヒンク氏が自分のストラドに深い愛着を感じていることが良くわかりました。
コンサートホールだと,1番前の席でも,ステージ上のヴァイオリニストまでは,4~5メートル離れていますが,PMFのミニトーク付きコンサートでは,最前列だとわずか3メートルのところから,ヴァイオリニストとその愛器を見ることができます。
ヒンク氏のボウイングが素晴らしいことはいうまでもありませんが,やはり,楽器も素晴らしく,良く透る張りのある大きな音が出ているにもかかわらず,すぐそば(弓の毛が弦をこする音が聞えるほどの近さ)で,長い時間聴いていても,その音色は大変心地良く感じられました。
時折「濡れ光る」ように見える落ち着いた色合いのニス,浮き上がって見えるほどハッキリとした横板の深い杢,1枚板の裏板の柔らかい感じの美しい杢,極めて精度の高いスクロールとエフ字孔,繊細さの中に芯の強さを秘めたような美しいプロポーション,気品を感じさせる雰囲気など,今も強烈にそのイメージが残っています。
世の中には,ストラド以外にも,ガルネリ・デル・ジェス,カルロ・ベルゴンツィ,ニコロ・アマティ,JBガダニーニなどのオールドの名器や,あるいは,モダンや新作の中にも素晴らしい楽器がたくさんあることは十分承知しておりますが,僕の場合は,見れば見るほどに,ますますストラドが好きになっています。できることなら,いつかはストラドに触れて,さらに許されるのなら,少し弾いてみたいと思っています。
来週の堀 正文さんのストラドは,以前N響のコンサートで見たときに,非常に美しいストラドだったことを記憶しています。堀さんのストラドが何年製のものかご存知の方がいらっしゃったら教えて下さい。
それでは,また。
ycさんへ。「音楽としての鑑賞は勿論、ヴァイオリンの演奏自体と、それから楽器にも興味があるのでコンサートでは大忙しです(目の配りどころが)。まして、自分的にスペシャルな曲や演奏家だったりすると、まばたきをしないくらい真剣に見ます(耳は当然全開)。感動してではなく、目が乾いて涙が出ることも多いです。」とのことですが,全く同感です。僕も,その演奏家の音色の素晴らしさ,表現の多彩さ,技巧のすごさに感動して涙が出そうになることがありますが,その演奏家の使用する素晴らしい楽器の美しさに感動して,胸がつまりそうになることもあります。
ワディム・レーピンのコンサート(曲は,レーピンが得意にしているチャイコフスキーのヴァイオリン・コンチェルト)で,かつて,あの偉大なサラサーテがラロの作曲した「スペイン交響曲」を初演したときに使用したと言われている1708年製ストラディヴァリウス「ルビー」を近くから見たのですが,演奏の素晴らしさとあいまって,非常に興奮し感動した想い出があります。「ルビー」は,本当に美しい楽器で,サラサーテが使用したというエピソードにふさわしい名器でした。
さて,先週のPMFのコンサートは,最前列で聴いた(見た)ので,いろんな意味で収穫が多かったです。僕は,ストラディヴァリウスが大好きで,部屋には,ストラディヴァリウス(以下略してストラド)の実物大ポスターが2枚(1704年製Betts,1724年製Abergavanny)と英国のヴァイオリン専門誌「STRAD」の2001年カレンダー(ストラディヴァリ特集)が壁にかけられています。その他には,オールドヴァイオリンの写真集を何冊か持っていて,ときどき眺めています。僕は,いまだに本物のストラドには直接触れたことはありませんが,コンサートでは,前から数列目の席から双眼鏡でじっくりと見ており,また,TVでは楽器のアップが写るので,そういうときにも,じっくりと観察しております。
そういう目で見ても,ヒンク氏の1709年製ストラディヴァリウスは,本当に極上のストラドだと思いましたた。ウィーン・フィルはウィーン・フィル専用の楽器だけを使用しているので,ヒンク氏がウィーン・フィルのコンサートマスターとして弾く時は,そのストラドは使用せず,ウィーン・フィル所有のコンサートマスター専用の楽器を使っていると思います。ストラドは,主に,ソロや室内楽の演奏のときに使用していると思います。そういう意味では,ヒンク氏のストラドは,世界中を忙しく旅している人気ソリストのストラドほどは,酷使されていないと思います。
どんなに大切に扱われたストラドでも,コーナーが欠けていたり,スクロールが磨り減っていたり,エフ字孔が多少歪んでいたり,表板や裏板に目立つキズがついていたりするものですが,ヒンク氏のストラドは,そうしたキズがほとんどなく,本当に健康状態が良くて惚れ惚れとする美しさでした。
時々,非常に貴重な楽器を使用していながら,楽器の扱い方がやや雑なソリストやコンサートマスターを見かけることがありますが(全く許せない話ですが),ヒンク氏は,楽器の扱いがすごく丁寧で(ミニトークのときや楽章間に楽器を構え直すときの楽器の扱いが本当に丁寧で模範的でした),この美しい楽器を使用するのにふさわしい演奏家だと思いました。
これまでに一流ソリストのストラドを何本も見てきましたが,ヒンク氏の1709年製ストラディヴァリウスは2・3億円で買えるクラスのストラドでないことは間違いなく,もし売りに出れば,5億円は下らないのではないかと推測しています。
昨年もヒンク氏のコンサートを聴きに行きましたが,そのときのミニ・トークで,「私が使っているこの楽器は,あの有名なストラディヴァリウスです。この楽器は1709年製で,作られた当時から既に高価でしたが,今はその何千倍,何万倍の値段で,想像もつかないくらいに高価になっています。本当に素晴らしい楽器で,きっと,バッハもストラディヴァリウスの美しい響きを知っていたと思います。今日,演奏するバッハの無伴奏ソナタ(ト短調)を,私は,ストラディヴァリウスの美しい響きが生かせるように,表情豊かに美しく弾きたいと思います。」と話されていたのを思い出しました。その時の演奏も美しく感銘深い演奏でしたが,ヒンク氏が自分のストラドに深い愛着を感じていることが良くわかりました。
コンサートホールだと,1番前の席でも,ステージ上のヴァイオリニストまでは,4~5メートル離れていますが,PMFのミニトーク付きコンサートでは,最前列だとわずか3メートルのところから,ヴァイオリニストとその愛器を見ることができます。
ヒンク氏のボウイングが素晴らしいことはいうまでもありませんが,やはり,楽器も素晴らしく,良く透る張りのある大きな音が出ているにもかかわらず,すぐそば(弓の毛が弦をこする音が聞えるほどの近さ)で,長い時間聴いていても,その音色は大変心地良く感じられました。
時折「濡れ光る」ように見える落ち着いた色合いのニス,浮き上がって見えるほどハッキリとした横板の深い杢,1枚板の裏板の柔らかい感じの美しい杢,極めて精度の高いスクロールとエフ字孔,繊細さの中に芯の強さを秘めたような美しいプロポーション,気品を感じさせる雰囲気など,今も強烈にそのイメージが残っています。
世の中には,ストラド以外にも,ガルネリ・デル・ジェス,カルロ・ベルゴンツィ,ニコロ・アマティ,JBガダニーニなどのオールドの名器や,あるいは,モダンや新作の中にも素晴らしい楽器がたくさんあることは十分承知しておりますが,僕の場合は,見れば見るほどに,ますますストラドが好きになっています。できることなら,いつかはストラドに触れて,さらに許されるのなら,少し弾いてみたいと思っています。
来週の堀 正文さんのストラドは,以前N響のコンサートで見たときに,非常に美しいストラドだったことを記憶しています。堀さんのストラドが何年製のものかご存知の方がいらっしゃったら教えて下さい。
それでは,また。
[200]
堀 正文氏の演奏会
投稿日時:2001年07月24日 00:44
投稿者:克彦(ID:JVEmSCc)
こんばんは,札幌の克彦です。
7月21日(土)に,札幌芸術の森アリーナ(300人程度を収容できる室内練習場です)で行なわれた,PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)のミニ・トーク付きコンサートに行ってきました。
NHK交響楽団(通称N響)のソロ・コンサートマスターである堀 正文氏によるヴァイオリンと,ロサンゼルスフィル首席コントラバス奏者のデニス・トレンブリー氏によるコントラバスのリサイタル(ピアノ伴奏付き)でした。
約1時間のコンサートの曲目は,前半が,堀氏のヴァイオリンとPMFピアニストの伴奏によるクライスラーの「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」「愛の喜び」,パガニーニの「こんなに胸騒ぎが」による変奏曲,クロールの「バンジョーとフィドル」で,後半が,トレンブリー氏のコントラバスとピアノ伴奏で数曲(曲目省略)が演奏されました。
7月8日に行なわれたPMFのヴェルナー・ヒンク氏(ウィーンフィル・コンサートマスター)の演奏会は,最前列で聴くことができて,非常に感銘を受けるとともに,演奏技術に関しても大変勉強になったので,今回も早めに並んで,最前列で聴いてきました。
「N響のコンサートマスターとしての」堀氏の演奏は,TV(NHK)で時々聞いており,コンサートでも1度聴いていますが,ソリストとしての演奏を聴くのは初めてでした。
さて,すぐそばで聴いた印象ですが,メリハリの効いた小気味良い演奏で,特にクライスラーの3曲での軽やかで優雅な演奏が良かったと思います。
ただ,今回のミニトークコンサートは,PMFの教授としての指導(ほぼ毎日),PMFにおけるN響のコンサート(2回),PMF教授陣による室内楽の演奏会(2回)の合間に行われたこともあり,堀氏はややお疲れ気味のようで,演奏的にはやや不調であったように思われました。
実際,演奏会終了後に,PMFの学生達(日本人)と堀氏が雑談しているのを聞いたのですが,「堀先生,素晴らしい演奏でしたね。」「いや~,今日の演奏は,ちょっと練習不足だったね。自分の練習があまりできなくてね・・・。」と話していました。
パガニーニでは,そうした不調が時々見られましたが,クライスラーの3曲では,例えば,「美しきロスマリン」では軽やかに,「愛の悲しみ」ではしっとりと,「愛の喜び」では明るく溌剌とした雰囲気が感じられ,それぞれの曲の性格が浮き彫りになっていました。また,クロールの「バンジョーとフィドル」では,バンジョー模したピチカートの表現が巧みで,本当にバンジョーの音のように聞えましたし,フィドルの部分では遊び心が感じられ,非常に楽しめました。
先週のヒンク氏は,肩当てを使用していましたが,堀氏は肩当てを使用していませんでした。肩当てなしの場合,強いヴィブラートをかけたり急激なポジションチェンジの際に楽器の安定性を保つのに多少コツがいるのですが,すぐそばで見ることができたので,大変参考になりました。
やはり,見た目的には,肩当てなしの方が,演奏者と楽器との自然な一体感があり,フォームが美しく感じられます。堀氏は,現代の多くの若手ヴァイオリニストに比べると,あまり体を動かさずに演奏しますが,音楽と(最小限度の)体の動きがマッチしていて,演奏フォーム,ボウイングともに優雅な雰囲気が感じられました。やや高めに楽器を構えていて(楽器が水平より少し上向きになるくらい),往年の名ヴァイオリニストのような華麗さや風格を感じました。
音量は,2週間前に聞いたヒンク氏に比べると全体的にはやや小さめに感じられましたが,必要なときには,非常に張りのある輝かしい音が出ていて,メリハリが感じられました,実際,弓の毛は,弱めに張っているようで,弦にかける圧力もあまり強くないように感じました。あと,現代の多くの若手ヴァイオリニストに比べると,駒のすぐ近くはあまり弾かず,駒と指板の中間や指板寄りを多用しているように思いました。
ボウイングでは,「美しきロスマリン」での軽やかなスピカートが,見ていてとても勉強になりました。演奏者からわずか3メートル弱という至近距離からだと,どのくらい弓を跳ねさせているか,弓のどの部分を使っているか,どの程度弓を傾けているか,などが良くわかりました。僕は,この曲を軽やかに弾こうとすると音量が不足しがちになるので,堀氏のボウイングをイメージしながら練習してみようと思っています。
堀氏は,ストラディヴァリウスを愛用されているそうですので,その楽器もすぐそばから見たのですが,健康状態が良くて力強い雰囲気の楽器だと思いました。裏板は2枚板で深い虎杢があります。ニスの色は,ブラウン系でした。目立つキズの少ない美しい楽器でしたが,ニスの剥げ具合や表板の細かいキズのつき方,スクロールの磨り減り具合などから,コレクターピースとして保存されてきた楽器というよりも,長い間演奏楽器として使用されてきた楽器だと思いました。
そういう意味では,2週間前に見たヒンク氏の1709年製ストラディヴァリウスは,健康状態が極めて良く,とても300年が経過した楽器には見えなかったので,元々はコレクターピースだったのかも知れないと思っています。ヒンク氏のストラディヴァリウスは,スクロールがほとんど磨り減っておらず,表板のキズがほとんどなく,エフ字孔の歪みもほとんど感じられず,高貴ささえ感じられるような,ため息が出るほど美しい楽器でした。
どなたか,堀氏のストラディヴァリウスが何年製のものかご存知の方がいらっしゃいましたら教えて下さい。
演奏会終了後に,「美しきロスマリン」の楽譜に,サインをしていただきました。「ああ,シェーン・ロスマリンの楽譜だね。」と言って快くサインをしていただけたので,うれしかったです。このサインを見ると,少し上手に弾けるような気がしてきます。
それでは,また。
7月21日(土)に,札幌芸術の森アリーナ(300人程度を収容できる室内練習場です)で行なわれた,PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)のミニ・トーク付きコンサートに行ってきました。
NHK交響楽団(通称N響)のソロ・コンサートマスターである堀 正文氏によるヴァイオリンと,ロサンゼルスフィル首席コントラバス奏者のデニス・トレンブリー氏によるコントラバスのリサイタル(ピアノ伴奏付き)でした。
約1時間のコンサートの曲目は,前半が,堀氏のヴァイオリンとPMFピアニストの伴奏によるクライスラーの「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」「愛の喜び」,パガニーニの「こんなに胸騒ぎが」による変奏曲,クロールの「バンジョーとフィドル」で,後半が,トレンブリー氏のコントラバスとピアノ伴奏で数曲(曲目省略)が演奏されました。
7月8日に行なわれたPMFのヴェルナー・ヒンク氏(ウィーンフィル・コンサートマスター)の演奏会は,最前列で聴くことができて,非常に感銘を受けるとともに,演奏技術に関しても大変勉強になったので,今回も早めに並んで,最前列で聴いてきました。
「N響のコンサートマスターとしての」堀氏の演奏は,TV(NHK)で時々聞いており,コンサートでも1度聴いていますが,ソリストとしての演奏を聴くのは初めてでした。
さて,すぐそばで聴いた印象ですが,メリハリの効いた小気味良い演奏で,特にクライスラーの3曲での軽やかで優雅な演奏が良かったと思います。
ただ,今回のミニトークコンサートは,PMFの教授としての指導(ほぼ毎日),PMFにおけるN響のコンサート(2回),PMF教授陣による室内楽の演奏会(2回)の合間に行われたこともあり,堀氏はややお疲れ気味のようで,演奏的にはやや不調であったように思われました。
実際,演奏会終了後に,PMFの学生達(日本人)と堀氏が雑談しているのを聞いたのですが,「堀先生,素晴らしい演奏でしたね。」「いや~,今日の演奏は,ちょっと練習不足だったね。自分の練習があまりできなくてね・・・。」と話していました。
パガニーニでは,そうした不調が時々見られましたが,クライスラーの3曲では,例えば,「美しきロスマリン」では軽やかに,「愛の悲しみ」ではしっとりと,「愛の喜び」では明るく溌剌とした雰囲気が感じられ,それぞれの曲の性格が浮き彫りになっていました。また,クロールの「バンジョーとフィドル」では,バンジョー模したピチカートの表現が巧みで,本当にバンジョーの音のように聞えましたし,フィドルの部分では遊び心が感じられ,非常に楽しめました。
先週のヒンク氏は,肩当てを使用していましたが,堀氏は肩当てを使用していませんでした。肩当てなしの場合,強いヴィブラートをかけたり急激なポジションチェンジの際に楽器の安定性を保つのに多少コツがいるのですが,すぐそばで見ることができたので,大変参考になりました。
やはり,見た目的には,肩当てなしの方が,演奏者と楽器との自然な一体感があり,フォームが美しく感じられます。堀氏は,現代の多くの若手ヴァイオリニストに比べると,あまり体を動かさずに演奏しますが,音楽と(最小限度の)体の動きがマッチしていて,演奏フォーム,ボウイングともに優雅な雰囲気が感じられました。やや高めに楽器を構えていて(楽器が水平より少し上向きになるくらい),往年の名ヴァイオリニストのような華麗さや風格を感じました。
音量は,2週間前に聞いたヒンク氏に比べると全体的にはやや小さめに感じられましたが,必要なときには,非常に張りのある輝かしい音が出ていて,メリハリが感じられました,実際,弓の毛は,弱めに張っているようで,弦にかける圧力もあまり強くないように感じました。あと,現代の多くの若手ヴァイオリニストに比べると,駒のすぐ近くはあまり弾かず,駒と指板の中間や指板寄りを多用しているように思いました。
ボウイングでは,「美しきロスマリン」での軽やかなスピカートが,見ていてとても勉強になりました。演奏者からわずか3メートル弱という至近距離からだと,どのくらい弓を跳ねさせているか,弓のどの部分を使っているか,どの程度弓を傾けているか,などが良くわかりました。僕は,この曲を軽やかに弾こうとすると音量が不足しがちになるので,堀氏のボウイングをイメージしながら練習してみようと思っています。
堀氏は,ストラディヴァリウスを愛用されているそうですので,その楽器もすぐそばから見たのですが,健康状態が良くて力強い雰囲気の楽器だと思いました。裏板は2枚板で深い虎杢があります。ニスの色は,ブラウン系でした。目立つキズの少ない美しい楽器でしたが,ニスの剥げ具合や表板の細かいキズのつき方,スクロールの磨り減り具合などから,コレクターピースとして保存されてきた楽器というよりも,長い間演奏楽器として使用されてきた楽器だと思いました。
そういう意味では,2週間前に見たヒンク氏の1709年製ストラディヴァリウスは,健康状態が極めて良く,とても300年が経過した楽器には見えなかったので,元々はコレクターピースだったのかも知れないと思っています。ヒンク氏のストラディヴァリウスは,スクロールがほとんど磨り減っておらず,表板のキズがほとんどなく,エフ字孔の歪みもほとんど感じられず,高貴ささえ感じられるような,ため息が出るほど美しい楽器でした。
どなたか,堀氏のストラディヴァリウスが何年製のものかご存知の方がいらっしゃいましたら教えて下さい。
演奏会終了後に,「美しきロスマリン」の楽譜に,サインをしていただきました。「ああ,シェーン・ロスマリンの楽譜だね。」と言って快くサインをしていただけたので,うれしかったです。このサインを見ると,少し上手に弾けるような気がしてきます。
それでは,また。
[201]
Re: PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)
投稿日時:2001年07月24日 23:14
投稿者:yc(ID:E1Z3VzM)
克彦さん、またまたレポートありがとうございます。
> 実際,演奏会終了後に,PMFの学生達(日本人)と堀氏が雑談している
> のを聞いたのですが,「堀先生,素晴らしい演奏でしたね。」「いや~,今
> 日の演奏は,ちょっと練習不足だったね。自分の練習があまりできなくて
> ね・・・。」と話していました。
この辺が微妙に(笑)という感じです。正直なお人だ…。
パガニーニはともかく、クライスラーのようにセンスと美音で聴かせる
ウェイトが大きい曲ではそれでも充分素晴らしい演奏だったのだろうと
想像します。それにしても氏の演奏フォームはN響の中でも際立って
美しいと感じます。聞いた話では彼はフランス=ベルギー流派を理想と
しているらしく、あの柔らかで流れるような運弓は時々テレビで拝見しても
唸らせるものがあります。
> 実際,演奏会終了後に,PMFの学生達(日本人)と堀氏が雑談している
> のを聞いたのですが,「堀先生,素晴らしい演奏でしたね。」「いや~,今
> 日の演奏は,ちょっと練習不足だったね。自分の練習があまりできなくて
> ね・・・。」と話していました。
この辺が微妙に(笑)という感じです。正直なお人だ…。
パガニーニはともかく、クライスラーのようにセンスと美音で聴かせる
ウェイトが大きい曲ではそれでも充分素晴らしい演奏だったのだろうと
想像します。それにしても氏の演奏フォームはN響の中でも際立って
美しいと感じます。聞いた話では彼はフランス=ベルギー流派を理想と
しているらしく、あの柔らかで流れるような運弓は時々テレビで拝見しても
唸らせるものがあります。
ヴァイオリン掲示板に戻る
[ 8コメント ]